任官式
「ノア・ウィルアード殿。前へ」
呼ばれて、一歩出る。
長机の向こうには文官が三人。
書類の山。インク壺。窓から差す白い光。戦場とはまるで正反対の世界だった。
「西部戦線における功績を鑑み、ウィルアード侯爵家次期当主たる貴殿の昇進について、正式承認が下りました」
淡々とした声が発せられると共に、部屋の隅に待機していた兵士たちが動き出す。
「よって、貴殿を王国陸軍准将に任官します」
小箱が開かれ、新しい階級章が取り出される。
小箱より取り出されたそれを兵士から受けとった文官がこちらへと歩み寄り、そのまま無言で僕の胸にそれを付けた。
その金属は冷たかった。
「異議は?」
「ありません」
「結構。今回の准将授与は前代未聞と呼べるまでの特進であるが、それは西部戦線での大功績があってのことと、これよりの軍属に寄与するもの」
書類に印が押される。
その、乾いた音が響く中で文官が事務的な言葉を続ける。
「これより貴殿は第二王女殿下の御付きとして東方戦線へと出向してもらうことになる。西部戦線でも振るった敏腕を東方でも振るわれることに期待する」
……王女。
第二王女と言えば確か、かなり優秀として有名だったはずだ。
「貴殿はそれでは以上です。もう、退席していただいて構いませんよ」
准将への任官式という大事。それも、これから第二王女殿下の御付きになろうという人間に対する任官式はただこれだけで終わりだった。
敬礼も、祝辞もない。あまりに簡易的すぎるもの。
「失礼します」
僕は一礼して部屋を出る。
「ふぅ……」
廊下を歩きながら、胸の階級章に触れる。
ここには戦場で付いた泥も、血もない。
戦場は遠く、平地は未だ平和なムードが残っていた。
「戻ったよ、シーアお姉さま」
感傷に浸りながら僕は王城内の客室へと戻ってくる。
「んっ!おかえり!」
その客室の中で待っていたのはシーアお姉さまだった。
僕もそう、暇じゃない。長くウィルアード侯爵領に留まっているわけにはいかない。王都に行かないといけないし、東方戦線に行かないといけない。
とはいえ、精神的に限界そうだったシーアお姉さまをウィルアード侯爵領にそのまま置いていくわけにはいかない。
ということで、王都まではシーアお姉さまと一緒に行動していた。
「……准将」
立ち上がり、こちらへと駆け寄ってきたシーアお姉さまは僕の胸元についている階級章を目にいれる。
「大出世だよ。初めて与えられた階級が准将。流石は侯爵家、と言ったところだね」
「私でも少佐からだったわよ。異例も異例ね?」
「それもそうさ!ちゃんと西部戦線では活躍したんだから。ふふっ、一騎当千してきたよ?僕もウィルアード侯爵家の人間だからねっ」
「……無理は、していないわよね?」
前のような、僕の良く見たシーアお姉さまの表情が崩れ、不安そうな表情が覗かせる。
「もちろん。死んでしまったら意味がないからね」
崩れてしまいそうな、シーアお姉さまを安心づけるかのように僕は力強く答え、彼女のことをそっと抱きしめる。
「僕はシーアお姉さまの弟だからね。そう、柔じゃないよ」
「……えぇ、そうよね?そうよ……信じているわっ。死なないで……」
「……あぁ、約束するよ」
どの口が言っているのか。
そんな内心はおくびにも出さず、彼女の体を離す。
「よし、王都の観光にでも行こうか。シーアお姉さまも久しぶりの王都でしょ?」
堅苦しい軍服に身を包むのは終わりだ。
僕はまずマントを脱いでハンガーにかけ、そのまま衣服を着替えていく。
「観光ねぇ~、なんかちょっと今更な気がしてしまうわ。ここで嫌というほど働いていたもの」
「仕事がない状態での景色はまた違うものかもよ?」
「そうかしら?……まぁ、でも、ノアと巡れるのなら何でもいいわ」
「ふふっ、嬉しいこと言ってくれるね」
軍服から平民に見えるような簡素な服へと着替えた僕は最後に靴も変える。
「よし、それじゃあ、行こうかっ」
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