異常
「ノア様」
「んっ?」
シーアお姉さまの部屋に向かって廊下を歩いていた僕を一人の使用人が呼び止める。
「少し……よろしいでしょうか?」
「何でしょう?」
僕が使用人から声をかけられることは少ない。
基本的に土塊として見下される存在だからね。使用人からさえもあんまり話しかけられることはない。
だからこそ、話しかけてきた使用人に対し、僕は怪訝な視線を向ける。
「シーア様について少しお話がありまして」
「シーアお姉さまについて?」
その、使用人の口から出てきた単語がシーアお姉さまだったので余計に。
「に、睨まないでください……わ、私は昔からシーア様にお仕えさせていただいている者でして」
「あぁ、もしかしてリューイさんですか?」
「ご、ご存知で?」
「えぇ、シーア様お姉さまが口になされることがあるので……それで?僕に何の用でしょうか?」
シーアお姉さまの周りにいる使用人と言えば、土塊なんかと仲良くしないよう言っていた人たち。ぶっちゃけ印象はよろしくないんだけど。
「……シーア様は今、ノア様が残された服をノア様と勘違いなされていまして」
「……ん?」
僅かに眉をひそめながら使用人の言葉を待っていた僕は、その口から出てきた言葉に思考が停止する。
「そ、それはどういう……?」
「……元より、シーア様は気丈に振舞われていますが、その実は繊細な方なのです。戦争に行くこと。それ自体も忌避していたくらいには」
「えっ?」
「過酷な戦場の中で兄二人は倒れ、自身は両腕を失ってしまった。自信を失い、自負が砕け散った中で自分の身代わりとして愛する弟があの戦地へと旅立った……それを、シーア様は耐えられなかったのでしょう」
「……シーア、お姉さま」
「どうか、お願いです……い、今更私のような人間が何を言うのかとお思いでしょうが、シーア様の支えとなれるのはノア様だけなのです。どうか、どんな状況であれ、シーア様を見捨てずに」
「……言われ、ずとも」
言葉が詰まる。
だけど、……仕方ないじゃないか。シーアお姉さまが戦争へと身を投じることそのものを忌避しているとは思っていなかったのだから。
「……」
僕は使用人へと背を向け、シーアお姉さまの部屋へと向かっていく。
「入るよ、シーアお姉さま」
ここ最近、シーアお姉さまは部屋から出てこないらしい。
軽く部屋の扉をノックした後、僕は部屋の中へと入る。
「ノア。今日は私がご飯を作ってやったぞ。さぁ、食べろ!」
その部屋の中では今、シーアお姉さまが本当に僕の服に向かって話しかけ、ご飯を食べさせようとしていた。
「……シーアお姉さま」
その姿は痛々しく、僕は言葉を失う。
「……っ、ノア?……ノア?ノア?いや、何で……今、ノアなら私の手の中にっ」
そんな僕へと視線を向けるシーアお姉さまはその手にある服と、今、立っている僕とで見比らべ、動揺を露わにする。
「……ハハ」
だけど、その動揺は短かった。
シーアお姉さまは俯き、小さく笑う。
「ノア……ッ!」
その後、顔を挙げたシーアお姉さまが立ち上がってこちらへと飛びついてくる。
「ただいま」
そんなシーアお姉さまを僕はそっと両手を広げて抱きしめるのだった。
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