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不遇だった土魔法、実は戦争の役に立つ~土魔法使いに転生してしまった僕の、思わぬ成り上がり戦記~  作者: リヒト


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配置転換

「早すぎる!?二週間は先のはずだろう!?」


「そ、そのはずだったのですが……中央の想像をローシャ帝国が上回ったのでしょう。既に東部戦線では大規模な攻撃を受けており、ルノア東部方面軍は現在、辛うじて防衛には成功している、と」


「……どこまで持つ?」


「……持たない、と。西部戦線の戦線の兵を東部に回すと」


「……まだ、まだフリース王国は現在だ。倒せていない」


「既に第二軍に対し、攻撃停止命令と配置転換が命じられています」


「……では、何だ?作戦は失敗した、と?」


「……」


 僕の言葉に伝令兵は沈黙する。


「いや、すみません。あぁ……本当に、すみません。伝令兵である君に言ってもしょうがないですよね」


「い、いえ!そんなことは……ノア様がこれまでこの戦争の為に誰よりも努力しているところは見ていますから……このような結果となってしまったことは私も。我々の、力不足です」


「いや、そんなことはありませんよ……えぇ、貴方に責任はありません。前線の兵士たちは良く戦ってくれています」


「……そんな、ノア様にも辞令が。西部戦線から東部戦線へと急行するように辞令が出ております」


「……僕も?」


「はい。防衛線の構築に優れた土属性の魔法を使える者が必要であると東部方面のニュースベック大将閣下が」


「……なるほど。確かに、その通りですね。わかりました。私もすぐに向かいます」


 僕はため息を一つ吐き、天を見上げる。

 しばしの沈黙の後、僕は視線を部屋の中で広げていた地図へと戻し、静かに撫でる。


「我々の北方に位置する北海帝国は今、何と?」


「はっ?」


「情報はまだ来ていないか。なら、王都へと戻った時に確認しないとな。中立国への侵攻という蛮族行為をしたのだ。それの非難へとまだ本戦争に参加していない国が回る可能性は十分にある。特に、世界一の海軍力を持つ北海帝国が敵に回るのは不味い。我が国の食料事情は海路での輸入に頼っている。そこが断たれるのは不味い」

 

 戦争が長引く。

 なら、二か国だけを見ているわけにもいかない。


「君はもう下がって大丈夫ですよ」


「ハッ……」


 僕は伝令兵を下がらせ、カーネル大佐の方へと視線を向ける。


「配置転換だ。僕は一度、王都へと戻った後に東部戦線の方に配属される」


「寂しくなりますね」


「そう言ってくれるとありがたいよ……それで、だ。戦争は長引くだろう。カーネル大佐」


「ハッ」


「この戦域は任せる。前進せよ、とまでは言わない。ただ、下がるなよ?」


「お任せを」


 カーネル大佐にはずいぶんとお世話になってしまった。

 彼が深々頷いてくれるのを見た僕は再び椅子へと深く座り、また、天を見上げる。

 

「ハハ……いてぇ」


 戦争遂行にあたっての計画立案はもちろん。幾度も止血をお願いした。カーネル大佐がいなければ、ここまでうまくは出来なかっただろう。


「……ノア様?大丈夫ですか?」


「いや、……ちょっと、ね?」


 糸が切れた、そう言うべきだろうか。

 それまで遠くにあった現実感がいきなり近づいてきて、体の不調が警鐘を鳴らし始める。


「……無茶したなぁ」


「えぇ、本当に無茶をなされました。生きているのが奇跡でしょう」


「弾が一発でも心臓に当たっていたらヤバかったね」


「腕のいい外科医がいなければ間違いなく死んでいましたよ。内臓を幾つか損傷していましたから。火であぶるという最悪の応急措置をしたのです。大きな感染症にもかからず、今も生きていれるのが奇跡です」


「麻酔もなしの手術はきつかったね」


「……本当に、イカレています」


「違いない。ここ数日の僕は確かにちょっとおかしかった。でも、……少なくともルノア王国の敗北は遠ざけられた。勝利を掴むことはできなかったけどね」


 戦争に対するアドレナリンがあった。

 それがなければ、流石にここ数日の無茶は無理だった。ウィルアード侯爵家の人間が特別頑丈で良かった。僕はちゃんと一騎当千を豪語していたシーアお姉さまの血が同じだったようだ。


「……別に、死んでも良かったんだがね」


「ノア様?」


「半分くらい冗談さ。戦争が終わらないのであれば、死ぬわけにはいかない」


 僕は自分のことを楽観主義者だとは思っていない。

 シーアお姉さまの精神状態が数年で良くなるとは思えない。

 でも、僕がこの戦場で後数年も生き延び続けられる自信がなかった。


「……だから、勝つしかないと思ったんだけどね」


 ルノア王国が勝つには早期の決着が一番であり、それが出来なければ二正面作戦だ。勝利はかなり遠い。

 敗北濃厚の国の軍人として生き延びるとか、まぁ、無理だよね。


「ノア様、久しぶりの実家に戻られるのでしょう?しばしの間、ゆっくりなさってください。お体を大切に」


「そういうわけにもいかないよ」


「いえ、無茶しっぱなしではお体に触ります。限界でしょう」


「東部方面も限界だ。……僕はうまくやるよ。死ぬわけにはいかないしさ」


「……ノア様。貴方はまだお若い。こんなところで無茶ばかりでは背丈も大きくなりませんよ?」


「はは、それは困るな。今でさえ小さいのに……でもまぁ、チビな方が相手の弾丸を避けやすいからいいかな?」


「モテませんぞ?」


「耳が痛い話だ、そりゃ!僕は土塊だからね!」


「……うっ」


「ふっ、君が罪悪感を覚えずともいいさ。見下されるのは慣れている」


「ノア様を見下してなど!」


「今は、でしょ?ふふっ、良い部下を持てたよ。まだ正式な軍としての階級を与えられていない僕に良く従ってくれた。ありがとう。それじゃあ、また別の戦場で」


「……ふぅ。えぇ、もちろんです。必ず生きて会いましょう」


「あぁ、またね」


 カーネル大佐とはここでお別れ。

 僕は西部戦線を離れる為の準備を始めることになったのだった。

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