攻勢
前進。
ウィルアード侯爵家が三男、ノアの率いる部隊による初日攻勢により、8マイル前進。
前進。翌日、更に9マイル前進。
前進。前進。前進。さらに前進。
フリース王国の防衛線が崩壊。
全戦線でルノア王国軍が進撃を開始。5、8、11。25マイル前進。フリース王国の重要都市、イェールを陥落。
前進。前進。前進。さらに前進。
だが、戦争は終わらない。
機関銃が兵士をミンチに変え、砲弾が人を肥やしに変える。
前進。前進。前進。さらに前進。
停滞。
進め。進め。進め。さらに進め。
ルノア王国軍は攻勢を継続。
兵士たちよ、前進せよ。
ルノアの兵士たちよ、見るな。前線を見るな。その心が狂気に飲み込まれないよう。
兵士たちよ、前進せよ。
ルノアの兵士たちよ、しかと見よ。前線から目を背けるな。
君たちは今、そこにいる。
「あぁ……神よ」
神よ、戦争、を終わらせたまえ。
兵士たちよ、前進せよ。
進め。進め。フリース王国の大地を───おぉ、神よ。どうか。
前進。前進。前進。さらに前進せよ。
ルノア王国軍は首都近くの川、ルーム川を渡河。
しかし、他の戦域においてフリース王国の反攻を受け、停滞。渡河に成功した部隊が孤立し、まもなく殲滅。
戦争は終わらない。
■■■■■
ルノア王国の立案していた戦争計画。
それは中立国を経由しての電撃戦だった。
ルノア王国と国境を接するフリース王国の地方は当然、防備が固められ、早期に降伏させるなど不可能であった。そこで、目をつけたのが中立国として存在していた小国ボルンだった。
フリース王国北部と国境が接し、ルノア王国とも国境を接するその国は奇襲の為の道路にこれ以上ないほどに適していた。
ルノア王国はボルンを早々に攻め滅ぼし、防備が手薄なフリース王国の北部より進撃。
フリース王国の首都を征服することでまず、一か国を降伏させる目論見だった。
だが、最初の攻勢一週間で目論見が破裂。
ルノア王国の電撃的な作戦が成功したのは初日のみ。ボルンに展開した傭兵部隊による対魔法結果を活用した市街戦において、ルノア王国の貴族の大多数が戦線離脱。
指揮官を失ったルノア王国軍の侵攻はたった二日目で最初の停滞を迎えた。
それでも、ルノア王国軍はこちらも傭兵部隊を揃えることで兵力の穴を埋め、持ち前の工業力と技術力で攻勢を再開。二週間をかけてルノア王国軍はボルンを降伏させることに成功した。
だが、その二週間という数字は当初の予定よりも一週間以上遅かった。
ルノア王国軍がフリース王国の領内へと侵入した時にはもう既にフリース王国軍が北部にも展開されつつあった。
この時点ではまだフリース王国軍は少数であると共に、ルノア王国と同様、魔法を過信したフリース王国の貴族たちが軽く一蹴され、ルノア王国は最初の攻勢を成功で終わらせた。
だが、限界だったのはルノア王国側だった。多くの指揮官を失い、ガタガタの状態で無理やりに攻勢を行っており、越境三日目でとうとう限界が到来。
一度、戦線整理の為に攻勢を止めると共に、兵の再配置が行われた。
その隙を、フリース王国がついた。
最も兵が薄くなった地点へとフリース王国が反転攻勢を仕掛け、前線が崩壊。戦線に一つの大きな穴が空いた。
このままルノア王国軍全体が瓦解するのではないか、そう思われたところで───1人の援軍が、状況を再び変えた。
反転攻勢を返り討ちとし、攻勢に使った兵力を失ったところで手薄となったフリース王国の塹壕を一部突破。
そこから逆にルノア王国軍が再び攻勢を再開し、1つの穴が出来たフリース王国の構築した脆弱な防衛線を破壊。進撃を再開した。
……。
…………。
「クソッ!時間をかけ過ぎたっ」
フリース王国の湾岸都市、リーベル。
僕の率いる部隊が占拠したその都市の中で僕は歯噛みする。
「ですが、それでもここを占拠した意味は大きいです。港を確保しました。本国から海路で補給を行えますし、逆に相手の補給を潰せます」
リーベルの占拠。
それ自体には大きな意味がある。
だが。
「僕がやりたかったのはリーベルに立てこもるフリース王国の兵の殲滅っ!でも、撤退を許してしまった。僕たちはこれ以上の進軍に際し、また、フリース王国の頑強な防衛線に阻まれるっ」
僕が戦場に立ってから早いことでもう二週間。
すなわち、戦争開始から一か月が経過した。既にフリース王国は北部への戦力転換を終わらせてしまっている。
その上で、見積もりではオースティン帝国の戦力配置が終わるまで後二週間しかない。それまでにフリース王国を降伏させるには……。
「駄目なんだよっ!これじゃあ、……ぐぅっ」
首都は後少しだ。
いや、首都まで行く必要はない。もう少し、もう少し進められれば。何か、何か大きな痛手を与えられれば。
「……ノア様。そう、体を強く動かさず。ずっと、無理なさっているのですから」
「はぁ……はぁ……はぁ……大丈夫、だから」
ずっと、最前線に立っていた。僕の魔法は既に通用しなくなり始めている。
体に受けた弾丸も増えた。既に、体には感覚がない。
「まだ、終わっていない……」
でも、戦争はまだ終わっていない。まだ、精神は高揚の中にいる。体の辛さは、忘れられている。
「失礼しますっ!」
「……」
「何だっ!」
勝利の為に。次の攻勢計画を立てようと部屋に広げた地図へと僕が視線を落としたところで一人の伝令兵が部屋へと飛び込んでくる。
「と、東部戦線でオースティン帝国の攻勢が始まったとのことですっ!」
「……は?」
その、伝令兵の口から出てきた言葉はにわかに信じがたいものだった。
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