止血
「はぁ……はぁ……はぁ……」
息が切れ、視界が霞む。
「ですから、無茶だと何度も!そんな大怪我で走り続けるから……っ!」
腹に三発と右足に一発。
計四発が僕の体を撃ち抜いた弾丸の数だった。
「腹の出血がひどい……魔法で無理やりに体を動かすにも限度がありますっ」
無属性魔法の種類は多い。
無属性魔法の中には、失った血を端から再生させていく魔法なんかもある。それらを駆使すれば、弾丸に撃ち抜かれてもしばらくの間、活動が可能だった。
体内で発動させている魔法までは対魔法結界で防げないからね。
「血はまだ足りているでしょう?」
「もう少しで足りなくなります!魔法による血液の補充は褒められたものじゃないのですよ!魔法で生み出された血液はあくまで疑似的なもので、完璧じゃありません。ほんの少しの応急措置にしかなりません……それなのに、こうも連続してっ。無事なことが奇跡ですよ」
「カーネル大佐。貴公は火属性の魔法使いでしょう?」
「そうですが、もう関係はありませんよ。そんなことよりもジッとしていてください。今、包帯で止血を」
「包帯はいいです。代わりに魔法で焼いてくれませんか?」
「はっ!?」
「それで止血出来ます」
「な、何を言っておられるのですか!?」
「対魔法結界をしばしの間、止めるように」
僕が前線にやってきてから三時間。
相手の反転攻勢を受け、敗走に回るしかなかったルノア王国軍は僕の活躍もあって反撃に成功。一度は占領された塹壕を取り戻すことに成功していた。
「しょ、正気ですか!?」
「正気ですとも」
塹壕内にはまだ物質が残されていた。
四分の一ほどの物資は敵に奪われてしまっていたが、されど四分の一。元の貧弱だった装備を考えれば、十分すぎる補充だ。
「まだ、動く必要があります。我々は陣地を取り戻しただけにすぎません」
攻勢を、攻勢を仕掛けるには十分な物資だった。
「向こうの塹壕は今、攻勢で兵力を失っていてスカスカです。逆のことが出来ます。チャンスは今しかありません」
「無茶でしょう……!戦線の崩壊を防げたことをまずは褒めるべきですっ!兵も疲れています!」
「だけどっ!それじゃああ、勝てない。ローシャ帝国の動員まで時間がない。フリース王国を攻め滅ぼさねば」
この世界だと、ルノア王国はフリース王国の宮殿で戴冠式をやったりしていない。
ルノア王国への復讐心など、フリース王国は持ち合わせていない。フリース王国を早期降伏させることは現実的。首都にまで行く必要さえないかもしれない。
「……長期化すれば、負ける。だから、早々に戦争は終わらせる。その為の攻勢だ。今、やるしかないんだよ」
そうだ。
戦争なんて、終わらせなきゃいけないんだ。そうすれば、僕も早くに帰れる。シーアお姉さまをこれ以上寂しがらせることもなくなる……今、今だ。今なんだ。
そうだ。間違っていないっ。
「んっ」
僕は立ち上がり、指揮官用の天幕を出る。
カーネル大佐が動いてくれないのであれば、僕が動こう。
「おいっ」
天幕から出て、忙しそうに塹壕内を走る兵の一人を僕は呼び止める。
「ハッ」
「物資の確認を急がせろ。すぐにまた、攻勢へと出る」
「……は?攻勢、でありますか?」
「あぁ、そうだ。それと対魔法結界も一度、切ってくれ。僕の止血をする必要がある。火属性の魔法を使える人間も───」
「ノア様ッ!?」
淡々と兵に向かって命令を下していた僕の名を呼びながらカーネル大佐が慌てて天幕の中から出てくる。
「君、先ほどノア様が告げられた言葉は確実に実行せよ。これは上層部の決定だ。諸君もだ!この場の全員に継ぐ!我々は当初の目的に戻る!フリース王国を潰す!そのための覚悟をせよっ!」
「「「ハッ!」」」
「……」
僕の言葉よりも、ずっとこの戦線で上官をやっていたカーネル大佐の言葉の方が通り良かった。
「さっ、ノア様。一度、天幕へ……そこで、止血を」
「……その時間さえ惜しい」
ウィルアード侯爵家の名声は一度、地に落ちた後だ。
早々に倒れたウィルアード侯爵家の穴埋めのためにこの戦線から兵が引き抜かれ、その結果として先の反撃を許した。この場の兵士はウィルアード侯爵家への恨みを持っていると言ってもいいだろう。
その名声は一度、僕が誰より前に立って戦場を走ったことである程度は回復出来たと思っている。
でも、まだある。更なる勝利の為、攻勢を仕掛ける為の兵士の士気を確固たるものに出来るほど、僕はまだ周りから信を得られていない。
だから、見せる必要がある。僕が、戦っているところを。覚悟を、見せるんだ。
「さぁ、早く……上が、犠牲になるところも見せた方がいいでしょう?」
僕はその場に腰を下ろし、自分の軍服をめくる。
「「「……ッ!?」」」
悲惨なことになっている服の下。
それを始めて、確認した周りの兵士たちがぎょっとした視線をこちらへと向けてくる中で、僕はカーネル大佐を真っすぐ見据える。
「早く」
「承知いたしました……」
カーネル大佐は僕の言葉に頷き、自分の傷口へと手をかざす。
「ご覚悟を……」
「わかっている」
既に対魔法結界は一度、切られている。
炎が舞う。
「……ッ、ァァァアアアアアアアアアッ!?」
一度は、堪えようとした絶叫。ほんの一瞬だけかみ殺した後、堪えきれず僕の口から絶叫が漏れ出す。
視界が暗闇へと落ち、汗が滴り落ちる。肉の燃える嫌な匂いが鼻を刺す。
「ふーっ!ふーっ!ふーっ!」
「の、ノア様……後、二つですがっ」
「良いから、早くしてっ!」
僅かに戻った視界。
動揺の感情を見せるカーネル大佐を睨みつけ、僕は早く済ませるよう急かす。
「ァァァアアアアアアアアアッ!?」
絶叫ばかりが響き、兵士たちが足を止める。
「んぅっ!」
それを横目に見る僕は二つ目の傷口を焼き終えた段階で一度、カーネル大佐を押してどかし、周りへと言葉を飛ばす。
「諸君!足を止めるな!ルノア王国の為に!我らが勝つのだ!我らで勝つのだ!我らが英雄となるのだ!さぁ、早くッ!」
意識が、途切れそうだ。
あぁ、でも……でも、勝たなきゃ。勝って、戦争を終わらせるのだ。
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