土属性の魔法
「弾薬が、弾薬が足りねぇ!」
「クソ!弾切れだっ!」
「こっちには余っている!そっちに向かうから待っていろ!」
「……ちっ。もう機関銃は無理だな」
「砲兵ども!もっと砲弾を!」
戦闘開始から一時間あまり。
趨勢は圧倒的にルノア王国軍が優勢だった。こちらが塹壕に籠り、隠れながら戦っているのに対し、相手は元々密集陣形なんてこちらの的でしかない陣形で近づいてきていたのだ。そりゃ優勢にもなる。
だが、こちらにも問題はあった。それが圧倒的な物資不足。
最初はたった四十名の規模だった。そこから遅れて撤退してきた兵士たちも合流し、立派な防衛陣地になったが、大慌てで撤退してきた兵士の集まり。物資はほとんどなく、砲兵も少なかった。弾も、砲も、多くはここより少し前の塹壕に置きっぱなしだった。
「ノア様……これ以上の総攻撃は。補給部隊が」
「いや、却下だ。今、この場で相手の部隊を撃滅する」
そんな状況で、僕はずっとすべての物資を使い潰すつもりで総攻撃を仕掛けるよう命じていた。
「で、ですが、これ以上は限界です。相手も既に態勢を立て直しています。向こうも塹壕を構築し始めています。砲兵の数では、向こうの方が上ですっ。これ以上の物資投入は」
「……そろそろ出るか」
「はい……?」
僕は銃を手に持ち、もてるだけの弾丸をもってすぐにでも飛び出せるよう準備する。
「僕が前に出る」
「はっ!?な、何をおっしゃっているのですが!?」
「貴族の名誉だろう?じゃ、行ってくる」
訳わからないとばかりに叫んでいるカーネル大佐を他所に僕は塹壕を飛び出す。
無属性魔法を発動させ、僕の体を強化。
ただ一歩。地面を勢いよく蹴り、一気に前へと躍り出る。
「ハハッ!ちゃんと幼少期から訓練しといてよかった!」
僕は一歩だけで、百メートルも前進してみせた。
「馬鹿が突っ込んでくるぞ!うてぇーっ!」
そんな僕に対し、フリース王国軍は動揺しながらも銃口を向け、引き金へと手をかける。
「おそぉいっ!」
その引き金が引かれ、僕へと弾丸が飛んでくるよりも前に、僕の魔法が発動する。
地面が盛り上がる。
「うわぁっ!?」
「な、何だっ!?」
フリース王国軍が一生懸命に掘った塹壕が僕の魔法によって盛り上がり、一気に彼らは表舞台に立たされる。
「……どこまで、僕も無双できるかねぇ?」
対魔法結界は地上からドーム状に張られている。
そうすることで、全方位から来る攻撃魔法を防ぐことが出来る───つもりになっているわけだ。ドーム状では、地面からの攻撃は防げない。
つまりは、まだ対魔法結界は仮想的に土属性の魔法をあげて運用されていない。
「死ねっ」
いきなり地面が動いたもので、態勢を崩された敵兵のひとりへと僕は銃を向け、引き金を引く。
「うわぁっ!?」
頭を狙った僕の弾丸は少し、下にズレ、顔面を撃ち抜く。
顔から鮮血を吹き出させる敵兵は絶叫しながら、その場に蹲る。
「……ぅあ」
それでは、……まだ死なない。
僕はほぼ反射的に同じ男へと更に三発の弾丸を叩き込む。
「あぁぁっ!?」
俯つむいていたその男は、次の一発で体を震わせ、二発目で死に絶えだろうに顔を上げ、三発目で僕のことを真っすぐ睨みつけながら地面に倒れていった。
「……ハハッ」
流石に、違うな……相手の顔が見えるというのはっ。
人を殺した。
その実感を、目で見た僕の体が強張る。
「うっ!?」
敵陣のど真ん中。思わず足を止めてしまった僕の腹を一発の弾丸が貫いていく。
「……ありがてぇなぁっ!」
熱い。
燃えるような激痛が、僕から無駄な感傷を奪い去っていく。
僕は引き金を続けて引き、また一人、別の敵兵の命を奪う。
「愚か者を殺せぇぇぇえぇええええ!」
「無駄ッ!」
後ろから来る弾丸を僕は土属性の魔法を使って土壁を使うことで防いでみせる。
「我が名はノアッ!ウィルアード侯爵家が次期当主ッ!ノア・ウィルアードである!」
360度が敵。
そんな中で、僕は叫ぶ。少し離れたところにいる自陣営へと向けて。
「我に続けっ!敵を殺せぇぇええええええええええええ!」
せっかく掘った塹壕は振りだし。
建て直した態勢を再び崩した。
「うわぁぁああああ!?」
最初と同じように、ルノア王国軍の弾丸が確実にフリース王国軍を蝕んでいく。
そんな中で僕は一人、土属性の魔法を駆使してただ一人で敵兵を一人ずつ殺していく。
「わ、わかった!?」
がむしゃらに進んでいた僕は、相手国の将兵の階級章をつけた男の前にまでいつの間にか躍り出ていた。
「わ、我々は……こ、こうふっ!」
「死ねっ!」
ルノア王国の言葉で告げられていたその言葉を遮るように、僕は階級章をつけた男を撃ち殺す。
「……はぁ、はぁ、はぁ」
降伏され、捕虜になられたら、こちらに保護する義務が生まれてしまう。
そんな時間的猶予はない。
「殺せっ!」
叫ぶ。
「敵を殺せ!ただし!逃げる奴は追うな!捨ておけ!そして!我らは前進せよ!塹壕を飛び出し、前へ!元の陣地を取り返そう!」
叫び、銃の引き金を引く。
鮮血が舞い、人であったものが地面に倒れる。
「我らは何の為、ここにいる!何をしに来た!侵攻だ!フリース王国へっ!首都ノルンへっ!前進を止めるな!ただ、前へっ!」
「「「おぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおっ!」」」
人が倒れていく狂騒。その中心に立つ僕の叫び声に周りの兵士たちも呼応していく。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
人が倒れる。
フリース王国軍も、ルノア王国軍も関係なく、平等に。
「……まだだ」
逃げれば殺さない。
そんな言葉を、フリース王国の言葉でも繰り返し叫ぶ。その言葉へと縋るようにフリース王国の兵士の一人が逃げ出し、そのまま一気に統制が崩壊。
フリース王国軍は崩壊していく。
「さぁ!進もう!前にッ!」
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