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【本編完結】 少女クロスボウ小隊〜部隊を率いたのは魔を狩る者と恐れられた男だった〜  作者: 犬尾剣聖


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ボルフ少年期①


番外編のひとつです。

ボルフの少年時代の話です。









 

 今日の空は薄曇りで、地上までは陽の光がほとんど届かない。

 昨日までは晴れていたというのに。

 森に入れば辺りはさらに暗く、何度も踏み入れたいつもの森とは雰囲気が違う気がした。


 俺が13歳の頃の記憶だ。


 軍隊に入れる年齢は16歳だったが、俺は半ば強引に13歳で入隊した。

 大人の兵隊相手に実力を見せた結果だ。

 入隊して分かったんだが、年齢なんて幾らでも誤魔化せる。

 俺も馬鹿正直に13歳なんて言わなくても、初めから16歳と言い張っていれば、普通に正面から堂々と入隊出来たらしい。

 それで三か月の新兵訓練を受け、晴れて新兵として戦場へ送られた。


 その頃の俺は悪ガキがまだ抜けていない年頃で、小生意気な事ばかり言っていたと思う。

 そのせいか、いきなり最前線の部隊に配属させられたのだ。

 

 その当時、金が無くて装備が揃えられない兵が集まる、散兵部隊というのがあった。

 俺みたいな孤児や貧民などが集められた部隊だ。


 士気は低く、貴族達からは捨て駒のように扱われている部隊でもあった。

 そんな部隊だが、他の部隊に比べて脱走兵は少なかった。

 それはどんなに辛くても、毎日必ず無料で食事にありつけたからだ。

 ストリートチルドレンだった俺も同じだ。

 三食毎日食べられるなんて夢の様だった。


 その当時、武器や武装は自前であり、その装備状況で部隊が決められた。

 貧民でも武具さえ揃えられれば、重装歩兵部隊にでも入れたのだ。

 だけど俺には揃えられる筈もなく、誰でも入ることが出来る、散兵という貧乏人が集まる部隊に配属となった。


 散兵部隊の装備はというと、良くて戦場で拾った片手剣や槍で、中には投石と木の棒だけという者もいた。

 防具は大抵身に着けていない。

 鎧など手に入れてもそれは金に換えてしまう。

 防具は体の動きを制限してしまうからだ。

 散兵の長所は身軽に動けるところにある。


 そんな中、俺が持っている武器はというと、ボロボロの小さなナイフが一本だけだ。

 ナイフといっても戦場で拾った、びたナイフを研いだもの。

 魔物に突き刺すとポキリと折れてしまいそうなナイフ。

 無いよりまし程度だ。

 それと木を削った棍棒。

 あとは石を拾って投げるというのが俺の主な役目だ。

 ほとんど投石兵だな。


 一個分隊は10人編成だったのだが、俺が配属された分隊は8人しかいなかった。

 戦死者分の補充が出来ていないからだ。

 分隊は通常、班が2個で一個分隊という構成だった。

 俺達の分隊は8人だったから4人で一個班として、別行動の時は分隊長と副分隊長がそれぞれの班を指揮した。

 副分隊長はアガフォン兵長と言い、三十代半ばくらいの男だ。

 俺はその兵長の班に所属していた。

 まだ少年だった俺は、どいうわけか兵長に可愛がられていた。


 その日、アガフォン兵長が指揮する班が斥候の命令を受けたらしい。

 4人で敵陣がいるだろう森へ入って探って来いという命令だ。

 もちろん俺も行くことになる。


 その頃の俺は実戦経験はあるが、実際に魔物相手に接近戦で戦ったのは、ちょっと大きめのネズミくらいだ。

 ストリートチルドレンの頃に、食べるために戦ったジャイアント・ラットくらいだった。


 その森は何度も入ったはずなのだが、今日に限っては不気味に感じた。

 俺達四人は森の奥へ奥へと進んで行った。


 先頭を歩く背の低いすばっしこい男がミロンで、スリング革で投げる投石は分隊一で、彼も兵士歴は長くベテラン兵の一人だ。

 その後ろに身体の大きなアガフォン兵長が、槍を肩に担ぎながら進む。

 その後ろに俺が歩き、最後尾の殿しんがりは臆病で小柄な獣人マルコが行く。

 マルコは小剣持ちの俺より少し先輩の兵士で、いつも拾った木の実を口に入れてモグモグしている。


 こんなメンバーで敵がいる森の斥候だ。

 分隊長の指揮する四人も、別コースで森へと入って行った。


 しばらく歩くと先頭のミロンが立ち止まり、腰をかがめ、後続の俺達に背を低くしろと手で合図を送って来た。

 

 何かを見つけたのだろうか、それともいつもの勘で様子がおかしいと判断したのか、俺には全くわからない。


 ミロンは何も言わず、ただただ前方を凝視していた。


 俺も草木の隙間から何とか前方を確認しようとしたが、何も見えやしない。

 その気配さえ感じ取れなかった。

  

 しかしミロンが四つん這いで下がって来て、俺達のいるところにくると小声で言った。


「この先にゴブリン兵がいます。歩哨を立てているようです。今見えるのは一匹だけですが、恐らくその奥にはもっといると思います」


 どこにでも現れるゴブリン兵。

 人間の子供くらいの背しかない雑魚ざこだが、集団になればそれも脅威きょういとなる。


 それを聞いてアガフォン兵長が考えながらつぶやく。


「う~ん、そうか。敵の規模と装備が分からないと戻れねえんだよな」


 するとミロン。


迂回うかいして見ますか。あっちに行けば登れそうな木があります。高いところから見れば分かるかもしれませんよ」


 そう言って右の方を指差すミロン。


 確かにそんな木が幾つか見える。

 木につたが巻き付いていて、それを伝えば高い位置まで登れそうだ。


 そこでアガフォン兵長が決断する。


「良し、マルコ、あの木に登って敵の規模を偵察して来い」


 マルコは獣人で身体能力は人間よりも上だ。

 木登りくらい楽勝だと思ったんだろう。


 しかしマルコ。


「いやいや、無理っすよ。僕なんかに出来っこないっす」


 両手の平をブンブン振って無理をアピールしている。


「俺が行きますよ」


 気が付いたら俺は片手を小さく上げて、志願していた。


 アガフォンは俺をじっと見つめ一言。


「出来るのか」


「ああ、やってやりますよ」


 そう答えると、兵長はため息をつく。


「ふ~、分かった。ボルフ、行って来い。絶対に見つかるなよ。俺達の任務は戦闘じゃない。敵の規模と装備を知りたいだけだからな」


「分かってますって。戦いたくても武器がないですから、じゃ、行ってきます」


 俺はそう言って低い姿勢のまま、そのつたからまる木へと向かった。


 ゴブリンの姿は見えないのだが、風に乗ってその声が聞こえてきた。

 何言ってるか分からないが、笑っている様に感じた。


 木に到着するとゴブリンのいるのとは反対側から、つたを伝って木に登り始めた。

 半分ほど登ったところでゴブリンの方を見てみると、歩哨らしきゴブリン兵が槍にもたれるように立っているのが見えた。

 さらに登ったところで全体が見えてきた。


 人食い花と呼ばれる植物系魔物を仕留めたらしい。 

 ゴブリン共は、その魔物の食べれる部分を採取している。

 だが俺が木に登り終えて直ぐ、ゴブリン共は採取を終えて、出発の準備を始めた。

 

 俺はゴブリン部隊がどっちの方向へ行くのか見極めようと、しばらく木の上にいた。

 すると事もあろうか、奴らはアガフォン兵長達のいる方へ歩き出したのだ。

 その数は八匹ほど。


 アガフォン兵長達が、近くの木の影や草むらに隠れるのが見えた。


 そこへゴブリン部隊が接近して行く。

 俺はそれを木の上から見守るしかなかった。


 草むらに隠れたマルコの背中が見える。

 しきりにゴブリンを気にして落ち着かない様子。


 そこへゴブリン部隊が通り過ぎて行く。

 見ているこっちがハラハラする。

 マルコの背中を見つめながら、「動くなよ」とひたすら念じた。


 そして最後の一匹が、マルコの前を何事もなく通り過ぎるかと思われた。

 その最後尾のゴブリン兵が、突如変な行動を始めた。


 何かを見つけた様に、しゃがみこんだのだ。

 そして何かを拾って眺めている。

 俺にはそれが何だが想像出来た。

 木の実だ。

 マルコが良くモグモグしているドングリ。

 

 だがドングリを拾ったからといって、隠れているのがバレたとは限らない。

 ゴブリンごときが、そこまで頭を働かせないだろう。

 俺はそう思った。


 しかし結果は裏目に出た。


 マルコが走って逃げ出したのだ。


 そうなったらゴブリン共は、蜂の巣を突付いた様な騒ぎになり、その内の四匹が逃げるマルコを追いかける。

 しかし、こういった狭い所を走る速さは、ちょこまか動くゴブリンの方が上だ。


 あっと言う間に追い付かれるマルコ。

 マルコは覚悟を決めたのか、小剣を引き抜いて振り返る。


 少しして、マルコの悲鳴が森に木霊こだました。


 あっと言う間の事だった。






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― 新着の感想 ―
[良い点] 油断してたら更新だやったぜ。 ボルフの若いころ楽しみですね。
[一言] 他のメンバーがさらっと見捨てるとこ見るとしっかり損得勘定する部隊か
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