番外編④ 銀貨十枚
少女達が一斉にクロスボウを構える。
標的はもちろんマウンテントロールだ。
ゴブリンライダーも聞いてなかったようで、かなり混乱していた。
ゴブリン達にとってもマウンテントロールが、敵なのか味方なのか判断できずにいた。
だがそれは直ぐに判別がつく。
マウンテントロールが、ちょこまかと走り回るゴブリンライダーに攻撃を加えたからだ。
邪魔だと言わんばかりに片手ハンマーを振るった。
だが振り回した片手ハンマーは空を切る。
体は大きいが動作はかなり鈍い。
だがこれでゴブリンライダーにとっては非常に厄介な存在となった。
常に動きまわることで利があるゴブリンライダーにとって、この狭い空間にいるこのリーチの長いデカブツは邪魔な存在だ。
動きまわっていれば、近づかない訳にはいかない。
ここへきてゴブリンライダーとマウンテントロールの戦いが始まったのだ。
それに加えてひ弱な少女達が加われば、観客の興味を引かない訳がない。
経緯はどうあれ、観客は大歓声だ。
そうなれば運営側は上手くいったとほくそ笑む。
「支配人、観客は大喜びです。この騒ぎでさらに客が入場していますよ」
そう、闘技場の外まで聞こえる大歓声に釣られて、さらに客が入って行った。
それは久しぶりに見る大盛況で、満席にまでなった。
いや、それどころではない。
「支配人、凄いですよ。満席の上、立ち見状態です。こんなの初めてですよ」
闘技場運営は大喜びだった。
「放て!」
少女達が放ったボルトがマウンテントロールの顔面へと吸い込まれていく。
「装填急げ!」
突き刺さったボルトを取り払おうと、マウンテントロールが顔を掻きむしる。
そこへゴブリンライダーが群がる。
狙うはマウンテントロールの足元。
通り過ぎざまに槍を放つゴブリン。
次々にマウンテントロールの左足へと槍が突き刺さっていく。
先ほどまで野次を飛ばしていた観客は、今やこのデカブツが徐々に劣勢になっていくのを見て大興奮している。
そして遂にそのデカブツがズシンと地面に倒れ込んだ。
同時に観客からは大歓声が巻き起こる。
そこへ止めを刺そうと一騎のゴブリンライダーが走り寄る。
ゴブリンが槍を投げ放つと、それがマウンテントロールの横腹に突き刺さる。
握りこぶしで喜びを示したゴブリンが、離脱しようとマウンテントロールの横を駆け抜ける。
そこへ巨大な手が伸びた。
身体をムンズと掴まれたゴブリン。
主を失った狼だけが走り抜けていく。
「ギギャアアア……グホッ」
叫び声を上げたゴブリンだったが、直ぐに口から鮮血を噴き出しながら沈黙した。
握りつぶされたのだ。
そして見ればマウンテントロールは、負傷した場所から泡を発しながら再生していた。
それも恐ろしいほどの速度で再生していく。
マウンテントロールが上半身を起こす。
顔に刺さっていたボルトや横腹の槍が、泡と共に抜け落ちて地面へと落下した。
そして足に突き刺さっていた槍も徐々に抜け落ちて、傷口は泡を出しながら再生していく。
信じられないほどの生命力である。
ラムラが悔しそうにつぶやく。
「再生するのか、なんて奴だ……」
「諦めるのは早いにゃ。首を落とせば良いだけにゃ」
そう言ってミイニャはクロスボウは置いて一人走り出した。
手にはハルバートを持って。
ミイニャはマウンテントロールに接近するや、ハルバートを低く後方へ構えその顔に迫る。
だがマウンテントロールもそれを黙って見てはいない。
手に持った片手ハンマーを振りかざす。
その動きは決して早いものではない。
かといって接近すればハンマー攻撃を喰らう事は必須。
そこでミイニャはマウンテントロールの少し手前で急に立ち止まった。
そして大きく息を吸い込むとニヤリと笑う。
それにを見たマウンテントロールは、一瞬動きを止めて首を傾げる。
「ふん、にゃ~~~~~っ」
掛け声と共にミイニャの口から吐き出されたのは炎。
ファイヤーブレスだ。
「ガアアアアアア」
頭上まで振りかぶっていた片手ハンマーから手を放し、慌てて両手で燃える顔を押さえるマウンテントロール。
口元を手で拭ってからミイニャはつぶやいた。
「これで終わりにゃ」
ミイニャがハルバートを後方から半円を描くような軌道で振り回す。
ブウンと風を切る音。
そしてバッサリと切断されたマウンテントロールの首が空中を舞う。
その首は燃えたままクルクルと回転しながら地面へ落下。
ドスンと鈍い音を立てて地面を転がった。
その途端、観客からワッと大声援が巻き起こる。
会場割れんばかりの声援だった。
それに応えるようにミイニャがハルバートを空に突き上げると、さらに観客の興奮は最高潮に達した。
ここに新たな闘技場伝説が誕生したのだが、ミイニャ本人は知る由もない。
ミイニャだけじゃない、他の四人の少女達にまで声援が送られていた。
試合開始直後の野次を考えたら信じられない変わりっぷりである。
それに何故か生き残ったゴブリンライダー三匹までも槍を掲げて、勝利者気取りで闘技場を練り歩いている。
「ねえねえ、これで戦闘は終わりなのかな?」
アカサがそう疑問を口にすると、それにサリサが答える。
「そう、みたいね、この感じは。ならさ、あれやらなきゃだよね?」
そう言ってサリサは足を踏み鳴らし始めた。
言わずと知れた『足ダン』である。
するとアカサも笑いながら「やりますか」と呼応する。
となれば少女全員での足ダンに発展する。
すると観客も面白がって床で足ダンを始める。
観客席は一部木製らしく、そこでの足ダンは物凄く音が響く。
しかも満席立ち見も出るほどの観客数での足ダンは、街中の隅々まで轟いた。
気が付けばゴブリンは槍の石突部分を地面に打ちつけている。
足ダンの代わりらしい。
そして歓声と共に観客席全体から足ダンが鳴り響き出したのだった。
そんな時だった。
突然、観客席が崩れ落ちた。
木製の観客席が足ダンに耐え切れなかったのだ。
歓声が悲鳴に変わった観客席。
静まり返る運営事務所。
この後、運営側は被害を受けた観客達との戦いが待っているのだった。
運営事務所が大騒ぎの中、意気揚々と受付でファイトマネーを貰う少女達。
しかし……
「あれ、お金が少ないよね?」
最初に気が付いたのはアカサだった。
一人当たり銀貨二十枚のはずだったのだが、何故か銀貨十枚しか貰えていない。
慌ててアカサが受付に駆け寄る。
「ねえ、ねえ、銀貨二十枚貰えるって話だったんだけど」
すると受付にいる脂肪の塊のようなオバチャンが冷たい目で答える。
「あーら何いってるのかしらあ。参加賞金が銀貨二十枚でしょお。それに武器防具の貸し出し料金が銀貨ニ十枚よねえ。それと勝利者賞金が銀貨十枚よねえ。差し引いたらあ、残りは銀貨十枚でしょお。契約書をちゃんと読みなさいねえ、お嬢ちゃん?」
少女達は返す言葉がなかった。
契約書なんていう難しいものは、どうせ読んでも理解できないからだ。
そもそも今言われた計算の意味も良くわからない少女達。
結局は各自が銀貨十枚を握りしめて、少女達は闘技場をあとにするのだった。
後にこの街では『炎の祟猫』という名が、伝説のように語り継がれることになるのだが、それがミイニャだと気が付く者はいない。
――番外編・完――
お付き合いありがとうございました。
それと毎度誤字脱字修正に感謝!
サリサの足ダンについて。
サリサはウサギ系の獣人です。
リアルのウサギを飼ったことがある人は知っているとは思いますが、ウサギは怒ったり興奮したりすると後ろ脚で地面を「タンッ」と蹴るんです。
つまりサリサの足ダンは本能ですw
という訳で番外編は終了です!
新作もその内アップするかと思いますので、その時はまたよろしくお願いします。




