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【本編完結】 少女クロスボウ小隊〜部隊を率いたのは魔を狩る者と恐れられた男だった〜  作者: 犬尾剣聖


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番外編③ 第三の敵







 覚悟を決めたのか、ラムラがクロスボウを背負いながら言った。


「しょうがない。皆、行くよ。こんなのいつものことでしょ」


 その声にいつまでも闘技場を見つめていた四人の少女らも動き出す。

 動き出しながら自分に言い聞かせるようにアカサがつぶやく。


「そうだよね。私達、もっとすごい戦場を生き残って来たんだもんね。こんなの楽勝よね。それにさ、危なくなったら降参すれば良いんだもんね」


 そこで監視の男が怪訝そうな表情で少女らに問いかける。


「お前ら、そんなに沢山の装備を持って行くのか。それ持ってどうやって戦う気だ?」


 監視の男が言うのも無理はない。

 少女達はクロスボウの他にも衝立ついたてを一人二枚に加えて、大量のボルトを抱えているからだ。

 これではまるで砦で籠城戦ろうじょうせんをするかのようだ。

 だがその疑問にラムラが意気揚々と答える。


「まあ見てなって。第一ワルキューレ小隊の力を観客に見せつけてやるからさ」





 重い入場ゲートが音を立てながら開いていく。

 その音に交じって歓声が聞こえてくる。


 そして入場ゲートをくぐるとそこは戦場だ。


 少女達五人が闘技場に入って行くと、騒いでいた観客の声が徐々に静まっていく。

 そこへ観客の一人が野次を飛ばす。


「おおい、そんなに沢山荷物持ってよ、夜逃げする気か?」


 途端とたんに観客席では笑いが巻き起こる。


 少女達はどうしたらいいかも分らず、取りあえず闘技場の中央に向かって歩いて行く。


 進行役の男が大きな声で少女達と対戦相手のゴブリンの紹介を始めた。


「アマチュア大会の二試合目の挑戦者は、なんと最近活躍中のワルキューレ部隊だっ。対するはゴブリンの精鋭部隊たち~!!」


 そう紹介されたのだが、観客からの反応は薄い。

 兵士の間ではそこそこ有名にはなったが、一般人らにはそれほど名前が知られていないようだ。

 すると少女達に向かって再び野次が飛ぶ。


「女のくせに闘技場なんて来るんじゃねえよ」

「お家で洗濯でもしてろ」

「ゴブリンの代わりに俺が相手して、ヒーヒー言わせてやるぜえ」


 下劣な野次が飛び始めた頃、反対側の入場ゲートが開き始めた。


 ゲートが全部開き切る前に、その隙間からゴブリンが飛び出した。

 五匹のゴブリンだ。

 五匹だが全てのゴブリンが狼に騎乗している。

 

 五騎のゴブリンライダーだ。


 ゴブリンライダーは闘技場の壁沿いに、円を描くように走り始める。

 必然と少女達の周囲を走り回る事になる。


 ――戦いは始まっている。


 咄嗟とっさににラムラが叫んだ。


「全周警戒!」


 もう素人ではない。

 ラムラは分隊長を任されるほどの、いっぱしの下士官。

 これぐらいでビビってたまるかと、自分に言い聞かせながらの指示だった。


 しかしこの場所はマズいとラムラは考える。

 周囲を囲まれるのは不利になる。

 そう思ったラムラは新たな指示を出す。

 

「壁際まで下がるよ!」


 壁際まで下がれば少なくとも背後からの攻撃は防げると考えての行動だ。

 

 荷物が多いから移動は非常に遅い。


 ラムラは初めから壁際に居れば良かったと後悔するも今更だ。

 ゴブリンライダーの装備は革鎧と槍、戦場で出会う敵と同じだ。

 ならば戦法も同じであろうとラムラは予想する。


 だがゴブリンが何もしてこない訳がない。


 向かう方向の壁との間を槍をかざしながらすり抜けて邪魔をする。

 おかげで少女達は壁際へ中々たどり着かない。


 通り過ぎていくゴブリンライダーの装備を確認したサリサが、突如ハッとした表情をする。

 ゴブリンが持っている槍には、投擲用のおもりが付いていたからだ。


「持っているのは投げ槍、気を付けて!」


 そうサリサが叫んだのとほぼ同時に、ゴブリンが持っていた槍を投げてきた。

 見ればゴブリンはそれぞれ三本の槍を持っている。

 という事は少なくても二本は投げてくる可能性はあるということ。

 幸いにも投げられた槍は衝立ついたてによって防いでいた。

 

 この状態だと全周防御しなくてはいけず、そうなると衝立ついたてが足りない。

 どうしても壁際まで移動して防御する面を少なくしたい少女達。

 そうはさせまいとゴブリンライダーも必死に邪魔をする。

 

 しかしこのままだと、いずれ少女の誰かが負傷してしまうかもしれない。


 そこへ突如少女らの輪の中から一人だけ誰かが飛び出した。

 

「ゴブリンども、私が相手にゃっ」


 ハルバートを持ったミイニャだ。

 自分が囮になって仲間を移動させようと思っての行動だ。

 それを感じ取ったラムラが「ミイニャ、助かる!」と一言。

 

 ミイニャがいきなり飛び出したものだから、少女達の周囲をグルグル回っていたゴブリンライダーの動線が大きく乱れだ。

 

「今だ、移動!」


 ラムラがチャンスとばかりに声をかけるも、ゴブリンライダーとて必死だ。

 強引に少女達の移動の邪魔をしに入り込む。


「させにゃい!」


 ミイニャが駆け寄る。


「にゃああっ」


 叫びながらハルバートを大きく振るう。


 騎乗しているゴブリンへの攻撃ではなく、狙いはその下の狼。

 

 ハルバートの切っ先が狼の鼻先へ伸びる。


 騎乗しているゴブリンが姿勢を低くして目を細めた。


 誰もが狼の顔面を切り裂くミイニャのハルバートを想像したであろう。


 だが狼は後ろ脚で地面を「ダンッ」と蹴るや、ミイニャのハルバートを飛び越えた。


 そしてゴブリンは手に持った槍を振りかぶる。

 狼の跳躍ちょうやくに合わせて槍を投げ放とうとしたのだ。


 しかし槍は投げ放たれることなく、ゴブリンは地面へと後頭部から落ちた。


「よしっ、良くやった金メッケ!」


 とラムラが叫んだ。

 ゴブリンが槍を投げ放つよりも早く、メイケがクロスボウでゴブリンの胸を射貫いたのだ。

 

 地面に落ちたゴブリンはピクリともしない。


 観客からはどよめきが起こる。


 そして主を失った狼は徐々に速度を落として、しまいには壁際でへたり込んだ。


「これで四騎に減ったぞ、勝機は私達にあるぞ!」


 ラムラが皆を鼓舞こぶすると、それが聞こえたのか観客の一部から歓声が上がった。

 少女達を応援する者が出始めたようだ。


 その勢いに乗って少女達は見事に壁際まで移動に成功し、そのまま壁を背にして衝立ついたてで半円状の壁を作った。

 彼女達の要塞の完成だ。

 そこで籠城ろうじょうする構えだ。


 壁際を背に衝立ついたてをされると、ゴブリンライダーは騎狼突撃が出来ない。

 それに近づけばクロスボウで攻撃される。

 その為か明らかにゴブリンライダーの攻撃が緩んだ。


 ただしゴブリンライダーのような素早い標的には、なかなかボルトを命中させにくい。

 それにクロスボウは発射速度が遅い。

 ゴブリン達にもそれくらいは分かるし、彼らとて必死なのだ。


 少女の何人かがクロスボウを発射したタイミングで、ゴブリンライダーは急接近して少女達へ槍を投げ込もうとする。

 少女らはそれを衝立ついたてで防ぎ、クロスボウで反撃する。


 どれくらい時間がたっただろうか、ゴブリンも何度か攻撃を仕掛けたが上手くいかず、両陣営共に膠着状態こうちゃくじょうたいとなった。

 かと言って守りに入った少女達は攻撃に転じるのも難しそうだ。


 これが戦場だったならばそれも良いかもしれない。

 しかしここは観客がいる闘技場。


「勝つ気があんのか、こら~~っ」

「戦えってんだよ!」

「これじゃあ勝負にならねえだろ、金返せよ!」


 観客席からは不満の声が漏れだした。

 それは防御に徹する少女達に対するものばかり。

 

「おっと、手がすべりんこ」


 クロスボウのボルトが一本、観客席へと飛び込んだ。。

 サリサの放ったボルトだ。


 ボルトは野次を飛ばした男の足元に突き刺さっていた。


 静まり返る観客席。




 だがこの状況で一番困っているのは闘技場の運営側だった。


「支配人、これでは観客が暴れ出すのも時間の問題ですよ。何とかしなくては」


「しかしねえ、この状況で我々に出来る事なんて何があると言うんだね」


「良い考えがあります。私にお任せください」


 運営側の観戦席で何やら話が進められていくようだ。


 ◇ ◇

 

 闘技場では相変わらず膠着状態こうちゃくじょうたいが続いていて、観客席からはブーイングまで出ていた。


 そんな中、第三の入場ゲートが音を立てて開き始めた。


 少女達は何事かと音のするゲートへと視線を向ける。

 ゴブリン達も不思議そうに第三ゲートへと顔を向ける。


「ゴオオオオアアアア」


 雄叫びを上げながらゲートから出て来たのは、身長ニメートルはありそうな大型の人型をした魔物、マウンテントロール。


 ズシン、ズシンと地面に足跡を付けながら少女達の方へと接近して行く。

 毛皮を身体に巻いただけの防具。

 そして肩に担がれた無骨な片手ハンマーには、腐り掛けた肉片が多数こびり付いている。


 何よりもその汚らしく、凶悪そうなマウンテントロールの顔が人々の目を引く。

 下アゴから突き出た牙が人々の恐怖心をあおり、半開きの口元からは常にヨダレが垂れている。

 人族から見たらそれは存在そのものが憎悪感の塊だ。


 だが観客のボルテージは一気に高まった。


 待ってましたとばかりの大歓声。

 娯楽に飢えた観客達は、敵だろうが味方だろうが殺戮さつりくが見たいのだ。


「やっちまえええっ」

「そうこなくっちゃあ!」


 観客が盛り上がるのとは反対に少女達は恐怖する。

 早くもサリサが慌て始めて文句を垂れる。


「こんなの聞いてないよお、どうすんの、どうすんのよおっ」


 アカサもそれに追随ついずいする。


「こんな奴、ガチで無理じゃん。騙されたんだよ、私達~」


 青ざめていく少女の中でも一人だけは違う考えを言う少女がいた。


「こんなのいつものことにゃ。こんな時でもボルフにゃんはいつも落ち着いていたにゃ」


 それを聞いた他の少女達は一瞬黙り込むが、直ぐにメイケがボソリと言った。


「……私達……ワルキューレ、小隊……」


 それを耳にしたアカサがハッとした表情で顔を上げた。


「そうだった……いけない、忘れるとこだったね」


 ラムラが一際大きな声で叫んだ。


「ワルキューレ小隊、クロスボウ構えっ!」


 掛け声と共に、少女達の表情が一瞬のうちに変わった。










闘技場、書きたかったんですよ~

新作で書きたかったんですが、こっちで書いてしまいました。



明日の投稿で番外編終了です。




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