番外編② アマチュア大会
試合結果はミノタウロスの勝利となり、ミイニャ以外は賭けに負けたことになる。
とはいっても大した金額は賭けていないのだが、少女らの懐事情にしたら大きな痛手であった。
外れの木札を叩きつけるように回収箱へと返す少女達。
しかしその回収箱の所に張ってある掲示板を見たメイケが立ち止まる。
「どうしたの金メッケ?」
とラムラが声を掛けると、メイケが小さな声で説明を始める。
「……アマチュア……大会」
ラムラとミイニャとアカサは字を読むのはあまり得意ではない。
それでメイケに読ませるのだが、メイケも学がある訳でもないから完全に読めるほどでもない。
「……素人参加、参加賞金銀貨二十枚……」
その説明に少女らは食いついた。
「素人が参加できる闘技があるってことだよな。それも銀貨二十枚の参加賞金が出る!」
「やってやるにゃ!」
大喜びなのはラムラとミイニャだ。
「ええ~、クロスボウ持って来てないから無理だし~」
そう言って嫌がるのはアカサだ。
メイケとサリサも参加を渋る。
接近戦でも戦えるミイニャとラムラの二人だけはやる気満々のようだ。
取りあえず話だけでも聞きに行こうとなって、少女五人で受付へと向かった。
「あの~、アマチュア大会の事で聞きたい事あるんですけど~」
笑顔で話し掛けるアカサ。
すると受付でぶくぶくに太ったオバチャンが、気持ち悪いほどの笑顔で答えてくれた。
「あらあ、五人一緒の参加かしらあ。対戦相手はゴブリンだけど良いかしらあ。あ。見た所、装備はないみたいだからあ、貸出すわねえ。これにサインしてちょうだーい」
五人一緒の参加も出来るらしいと聞いて、ちょっとやる気になったメイケとサリサとアカサ。
しかも武器と防具は貸してくれるし、相手はたかがゴブリンだ。
五人は「いける」と確信してしまった。
「五人で参加にゃ!」
そこで勝手にミイニャが宣言したのだった。
契約書にサインさせられて、闘技場の装備室やらへと案内される五人の少女。
途中の通路で、やはり素人っぽい獣人のおっさん達の三人とすれ違う。
彼らは鎧や武器を装備しているのだが、装備慣れしていない感じだった。
戦闘経験は薄いようだなと少女らは思う。
彼らおっさんもアマチュア大会参加なのだろう。
彼らも少女達の姿をジロジロと見ながら通り過ぎて行く。
そのおっさん達も彼女らを「素人のガキか」と思っていた。
装備室前には衛兵らしい者が二人立っている。
装備室に入ると武器や防具が所狭しと積んであった。
鎧も各種サイズがあるらしいが、自分たちに合うサイズがあるとは限らない。
「さあ、ここで好きな武器防具を選んでくれ」
案内した男がそう言うと、入り口近くで腕を組んで立った。
途中で怖じ気づいて逃げ出す者もいるから、この男は彼女らの監視役でもある。
観客がいることから、飛び道具はやはり置いてない。
武器を見まわしながらサリサがつぶやく。
「ええ~、クロスボウがないじゃ~ん」
「本当だ、これじゃあワルキューレ小隊の実力発揮できないよお」
そうアカサが返す。
するとその言葉に監視の男が鋭く反応した。
「おい、お前ら、まさかワルキューレ隊の兵士なのか?」
男の反応にびっくりしてビビりながらも返答するサリサ。
「そ、そうだけど、何よ。な、何か問題あるの?」
この時点でサリサのウサ耳はヘナっと倒れている。
「ちょっと待ってろ」
男はそれだけ言うと、扉を閉めて装備室から出て行った。
呆然と立ち尽くす五人の少女。
ラムラがつぶやく。
「何がどうなったんだ……」
しばらくすると監視の男が戻って来た。
「許可が下りたぞ。特別装備室へ案内する、ついて来い」
特別装備室と聞いて首を傾ける少女達。
そして訳が分からぬまま監視の男に付いて行く五人の少女。
新しく案内された部屋も装備室だったのだが、見える景色が違っていた。
「なにこれ、凄い!」
思わずアカサが声を上げるのも無理はない。
部屋の中には先ほど案内された装備室の武器とは段違いで、種類は倍以上で質も良く、何よりクロスボウが置いてあった。
クロスボウだけではなく、弓矢にスリングの類などの飛び道具満載だ。
そこで監視の男が告げる。
「ここの装備を使って良いぞ。だがクロスボウは必ず装備しろ」
言われなくても少女達は直ぐにクロスボウに群がり、あれこれとクロスボウをいじりながら選び出した。
それを見た監視の男がつぶやく。
「どうやら本物らしいな」
その後、男は「後で来る」と言って部屋を出た。
監視はしないようだ。
少女らがクロスボウを選ぶ中、ミイニャはハルバートという槍の先端に斧が付いたような形状の武器を選んでいる。
愛用の長柄の曲刀に似た形状の武器だ。
ミイニャの防具は革製の胸当てと革製のヘルム。
革製のヘルムの耳部分は、もちろん獣耳の穴が空いている種類だ。
他の少女らも最低限の箇所だけを軽量の防具で守っている。
それと地面に置ける衝立だ。
クロスボウ兵にとって遮蔽物の無い闘技場は不利な戦場となる。
だからせめて衝立を持ち込むつもりのようだ。
しばらくしたところで今やってる戦いの次だと知らされて、闘技場内が見える控室に案内された。
少女達が控室に入ると、直ぐに目についたのが闘技場で戦っている剣闘士達だ。
先ほど通路ですれ違った獣人おっさんの三人が、ゴブリン六匹と戦っている。
驚いたことに、ゴブリン六匹は戦場でも中々見ないほどに装備を充実させている。
まるで精鋭部隊だった。
革鎧に身を包み、金属で補強された盾に槍という装備。
しかもおっさん達三人に対して二倍の六匹だ。
それを見た少女らは不安が募る。
詳しいルールが描いてある契約書を見ていなかったのだが、契約書には対戦相手は倍の数とちゃんと明記されていたのだ。
それを知らずにサインしてしまった彼女達の落ち度である。
「もしかして私達の倍の数のゴブリンと戦うんじゃないの」
不安そうにアカサが言うが、その疑問に誰も答えられない。
結局、試合結果は獣人おっさん三人の負けだ。
一人が負傷して動けなくなった途端に一気にゴブリン側に戦況が傾き、おっさん達は降参して試合終了だった。
幸いなことにおっさん三人は負傷はしたが生きている。
一人は重傷だが、残り二人は肩を貸しあいながらも自力で歩いて闘技場から退場して行く。
「ねえねえ、よく考えたらさ、これって死ぬ場合もあるってことだよね」
闘技場で担架で担がれていくおっさんを見ながらサリサがつぶやいてみたが、少女らは誰も言葉を発せず、ただただ後悔の念と不安だけが膨れ上がっていった。
サリサが「やっぱ出場やめようか」と口に出し掛けたところで監視の男が入って来た。
「出番だぞ」
遂に順番が来たのだ。
少女達の日常の話がここから脱線しました。
でも書いていてこの方が楽しいんです。




