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9/13

日常、調整中①

昼下がりの酒場は、今日も賑わっていた。


焼いた肉の匂い。


煮込みの湯気。


昼間から酒を飲んでいるおっさん達の笑い声。


「二番テーブルお待たせしましたー!」


聞き慣れない女の声が飛ぶ。


そんな中、扉が開く。


「……ただいま」


レオがふらふらと入ってくる。


服はどろどろ。


髪には草までついていた。


店内の視線が、一斉に向く。


「おっ、生き返ってきたか」


大工の親方が笑う。


「今日は長かったな」


「オレンジ出たんか?」


カイトが面白そうに身を乗り出す。


「普通の方は倒せたんか?」


「なんでオレンジ知ってんねん!!」


レオが叫ぶ。


どっと笑いが起きた。


カウンターの向こうでは、アスタリアが出来立ての料理を店員に渡していた。


「今日は跳ね返りで死んだわね」


「だからなんで知ってんねん!!」


「なんとなく?」


「絶対違うやろ!!」


カイトが苦笑する。


「お前ら、ほんま仲ええよな」


「どこがや!!」


レオはそのまま空いていた席にどさりと座り込んだ。


「腹減った……」


「はい、今日のランチ」


アスタリアが皿を置く。


香草の匂いがふわりと広がった。


「……うまそう」


「今日は魚の香草焼きよ」


「なんで酒場でこんな洒落たもん出てくんねん」


「昼飯も人気あるんだぞ、ここ」


カイトが答える。


「酒場やろここ!?」


レオは叫びながらも、空腹には勝てなかった。


一口食べる。


「……うっま」


「それはそうよ」


「腹立つ言い方やなぁ……」


レオは水を飲み、一息つく。


その様子を見ながら、常連達がにやにやしていた。


「で? 今日はあと何体やる予定や?」


「全部や!!」


「おぉ〜」


「ついにスライム卒業か?」


「簡単に言ってくれるなよ」


「次はゴブリンデビューやな」


「嫌すぎるわ!!」


昼間の酒場に、どっと笑い声が広がる。


奥では鍋の煮える音。


料理を運ぶ店員が、慌ただしく客の間を行き来していた。


「でも死ぬ気でやればいけるわよ」


アスタリアはさも当たり前かのように言ってのける。


「いやずっと死んでんねや!」


店内がさらに笑いに包まれた。


「でも最近、青いスライムは囲まれても倒せるだろ?」


カイトがフォローしてくれる。


「……まあ、せやけど」


レオは少しだけ胸を張る。


「攻撃のタイミングも分かってきたしな!!」


「へぇ」


アスタリアが皿を拭きながら答える。


「レオ、いまさらそこかいな?」


大工の親方が言う。


「今さら言うな!! こっちは命かかっとんねん!!」


「でも死んでも帰ってこれるじゃねえか」


「痛いねん!!」


「まっそら、そうか!!」


昼間から酒を飲んでいたおっさん達が、ゲラゲラ笑う。


「今日の仕事も無事に終わったからええんや!!」


ジョッキをぐいっと差し出される。


「ほれ、お前もどうだ?」


「この飲んだくれどもめ……こっちはまだ命がけの仕事中や!!」


酒場のあちこちから笑い声が飛ぶ。


カイトがジョッキを揺らしながら言った。


「でもまあ、前よりはちゃんと勇者っぽくなってきたんちゃうか?」


「いつもそういってくれるのはお前だけだよ、カイト」


レオが少しだけ涙目になる。


「しかもな!!」


「調子乗るとまた死ぬわよ」


アスタリアが即座に切る。


「なんでいっつもお前は!」


「実際、死んでるじゃない」


「ぐっ……!」


言い返せず、レオが詰まる。


酒場のあちこちから、吹き出す声が漏れた。


レオは不満そうに水を飲み干す。


「てかあのオレンジ、ほんま意味わからん……」


「そんな強いんか?」


「強いっちゅうか、変やねん」


レオは身振り手振りで説明し始める。


「曲がってくんねん!」


「ほぉ〜」


「しかも、避けたと思ったら、とんでもない速度で跳ね返ってもう一回来る!!」


「うわ、なにそれ……性格悪」


「やっぱりそう思う??」


レオが真顔で頷く。


「俺もその説は提唱していきたい」


「提唱すな」


「アスタリアはどう思う?」


アスタリアが皿を拭きながら首を傾げる。


「さあ?」


酒場の空気が少し緩む。


レオは不満そうに腕を組んだ。


「でも絶対、なんかなんかあると思うねん……」


「法則的な?」


カイトが身を乗り出す。


「そう! そんな感じや!」


「へぇ〜」


「レオより賢いかもな!!」


「そんなわけないやろ!!」


酒の入った笑い声が、店のあちこちから飛ぶ。


アスタリアはそんな様子を見ながら、淡々と皿を拭いていた。


そこへ、別の常連が笑いながら言った。


「じゃあ次は、何秒生き残れるか賭けようぜ」


「やめろ!!」


「俺、一分」


「いや今もっと長いやろ!」


「じゃあ二分」


「オレンジ初撃で終わる方に銀貨一枚」


「ほんま最低やなお前ら!! なあ? アスタリア」


アスタリアがさらっと言う。


「私は跳ね返りで死ぬ方」


「やっぱりお前もそっち側か!!」


「なんとなく?」


「カイト助けてぇ……」


「すまん、レオ。俺にはどうすることもできそうにない」


再び笑い声が広がる。


窓の外は、いつの間にか赤く染まり始めている。


「……まあでも」


立ち上がる。


「お前らと喋ってたらいける気してきたわ」


「おっ、行くんか?」


「おう」


剣を肩に担ぐ。


「次は絶対、あのオレンジ見切ったる」


「気ぃつけて死んでこいよー」


「せめて死なんように祈っといてくれよ!!」


アスタリアが、いつもの調子で言う。


「いってらっしゃい」


「お前は来ぇへんの?」


「見てわからない?」


アスタリアが忙しそうに皿を並べる。


「仕事あるよね!! ごめんね!!」


レオは叫びながら酒場を出ていった。


――夜。


町外れ。


草むらが揺れる。


オレンジ色のスライム。


レオは剣を構えた。


「……来い」


オレンジが回転する。


「右や!!」


レオは横へ飛ぶ。


オレンジが、さっきまでいた場所を曲がりながら通り抜けた。


「よっしゃ!! 見え――」


次の瞬間。


地面にぶつかったオレンジが、跳ね返る。


「は?」


どごっ!!


「がっ!?」


視界が吹き飛ぶ。


――王城。


冷たい床に、レオが転がり落ちる。


「っつぅ……」


だが。


王様がいない。


「……あれ?」


奥の方から、バタバタと慌ただしい音が聞こえる。


「待て、今行く!!」


「え?」


しばらくして、王様が現れた。


髪が濡れている。


妙に薄着だった。


「おぉ勇者よ。死んでしまうとは情けない」


「いや王様の方が情けない姿してるで?」


「当たり前だ!!」


王様がキレる。


「夜に死ぬな!!」


「なんでや!?」


「余にも生活があるのだ!!」


「それは気が付かんくてすまん。」


「そもそも、最近のおぬしは死にすぎなのだ!!」


「最近も何も最近、勇者として仕事はじめたからね!!」


王様はびしっと指をさした。


「昼間に死ね!!」


「無茶言うな!!」

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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