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回避、調整後

――町外れ。


『右よ』


 レオはいつもの草むらに向かいながら眉をひそめる。


(なんでわかっててん、あいつ……)


 あの時。


 アスタリアは、どのスライムから攻撃するかわかっていた。


 しかも、毎回や。


『私は仕事があるもの』


「てか、ほんまにこうへんやん、あいつ」


 レオは剣を肩に担ぎながら、呟いた。


「いやまあ、普段から来ぇへんけど……」


 一人で歩いていると。


 ざわり。


「今日も、おるな……」


 草むらが揺れる。


 一体。


 二体。


 三体。


 四体。


 五体。


「いっつも、多いねんって!!」


 反射的に声が出る。


 次の瞬間、スライムの一匹が跳ねた。


「来るっ――!」


 咄嗟に剣を構え、防御の体勢をとる。


 どんっ!!


「がっ……!?」


 衝撃が腕に走る。


 そのまま吹き飛ばされる。


 地面を転がりながら、慌てて起き上がる。


「いってぇ……!」


 二体目が跳ねる。


「うおっ!?」


 レオは歯を食いしばって受け止める。


 どんっ!!


 肩まで衝撃が抜ける。


「っ……!」


 三体目。


「いや無理やって!!」


 三体目のスライムが間髪入れず飛び込んでくるのを、そのまま受ける。


 どんっ!!


「ぐっ……!」


 押される。


 重い。


 四体目。


「次は、どいつや……!」


 横から飛んでくるスライムを目で追う。


「くそっ……!」


 スライムの攻撃になんとか剣を間に合わせる。


 どんっ!!


 その間も。


『右』


 アスタリアの指示が頭の中で反芻する。


(なんでわかっててん、あいつ……!)


 まだ攻撃を仕掛けていなかったスライムを見る。


 スライムが、一瞬ぐっと縮んだ。


「……今、縮んだ?」


 跳ぶ。


「っ――」


 反応が遅れる。


 どんっ!!


「がっ――!?」


 吹き飛ばされる。


 そのまま別のスライムが飛び込んでくる。


「ちょ、待っ――」


 視界が青で埋まった。


――酒場。


 昼前の酒場は、まだ客もまばらだった。


 厨房から漂う香ばしい匂い。


 皿を並べる音。


 カウンターではアスタリアがグラスを拭いている。


 その奥。


 酒樽の横に、場違いみたいに大きな水晶が置かれていた。


「よう! アスタリア!」


「あら、早いわねカイト」


 アスタリアが顔を上げる。


「午前の仕事が早めに終わったから、先に昼飯でも食べようかと思ってさ」


「いつも来てくれてありがとね」


「いや、こんな美人がやってる店ほかにないからな」


「あら、そんなこと言っても安くはならないわよ」


「残念だな……。ところでさ、あのでっかい水晶なに?」


 カイトが酒樽の横を指差す。


「あぁ。あれは昔、お父さんがもらって来たものなんだけど……カード占いもできるし、占いでも始めようかと思ってね」


「へー……アスタリアってなんでもできるんだな……」


「そうね」


「そうねって……まあ準備できたら教えてくれよ。俺も占ってほしいし」


「ふふ。楽しみに待っててね。それで、今日は何食べるの?」


「それじゃあ――」


――王城。


「おぉ勇者よ。死んでしまうとは情けない」


「待ってくれ! やっとわかったんや!!」


「……?」


 王がわずかに首を傾げる。


 レオは冷たい床から勢いよく起き上がった。


「アイツら、飛ぶ前に縮んどった!!」


 王が眉をひそめる。


「……縮む?」


「せや! あいつ飛ぶ前、ぐってなるねん!」


「ほう?」


「つまりそれをよく見たら、誰から襲ってくるか分かるってことや!」


「なるほど、それは実によかったのう」


「え?.......聞いてくれて、なんかありがとう」


「では次は、もう少し長く生き残れるとよいな」


「それは激励のつもり?」


「では行ってこい、勇者よ。そろそろ余にも本来の公務をさせてくれ」


「なんか、すみませんでした。」


 ――町外れの草むら。


「……縮んだら来る」


 レオは剣を構える。


 一体。


 縮む。


(あいつか!)


 横へ飛ぶ。


 避ける。


「よしっ!」


 だが喜んだ次の瞬間。


 二体目。


 縮む。


「っ!」


 レオは慌てて剣で受ける。


 どんっ!!


「っぶねぇ……! 喜んでる場合ちゃう!」


 レオは気を引き締め直す。


 三体目。


 縮む。


(次っ! 来る!)


 横へ飛ぶ。


 避ける。


 四体目。


 縮む。


 跳ぶ。


 レオは回避が難しいと判断し、咄嗟に真正面へ剣を突き出した。


 ざくっ!!


「ぐっ……!」


 剣が押し返される。


 その瞬間。


 ぐしゃっ。


「……え?」


 目の前でスライムが弾けた。


 レオは固まる。


 剣を見る。


「……まじか?」


 だが気が緩んだ隙に五体目が縮む。


「うおっ!?」


 避けようと飛び上がったが、爆散したスライムのぬめりに足を取られる。


 どんっ!!


 みぞおちに直撃する。


「ガハっ....!!」


 レオは意識が遠のいていくのを感じた。


――王城。


「おぉ勇者よ――」


「いや待て待て!!」


 レオが王様を制止する。


「今回はスライムの攻撃、少なくとも四回はいなし切ったぞ」


 レオは冷たい床から起き上がる。


「……いなした?」


「なんやったらとっさの判断で一体倒せたし!」


「ホウ。ソレハ実ニメデタイナ」


「少しは褒めろよ!!」


「たかがスライムであろう?」


「たかがスライムかもしれんけど!」


 ――町外れの草むら。


「さて、前回ので理屈はわかった」


 レオは頬を叩き気合を入れる。


「あとは実践あるのみ!!」


 レオは剣を構え、深く息を吐いた。


 草むらの中。


 一体のスライムがこちらに気づく。


 さらに残りのスライムが一斉にこちらを見る。


 最初に気が付いたスライムが動き出す。


 縮む。


(きたっ!!)


 飛び掛かってくる。


 レオは二、三歩横へずれる。


 スライムが先ほどいたところを抜けていく。


 レオはそのまま走りだす。


 二体目。


(前!)


 レオは剣を前に出す。


 どんっ!!


「ぐっ……!」


 衝撃。


 だが押し返すのではなく流す。


 勢いを逸らされたスライムが地面を転がる。


 そのまま一体目とぶつかった。


「ラッキー!」


 三体目。


(次だ!)


 レオは今度は前へ出た。


(避けたり受けるだけでは囲まれてまう。だから)


 飛び込んできたスライムを身体を捻って躱す。


 その勢いのまま一撃を叩き込む。


 グチャッ!!


 スライムに直撃し、爆散する。


(反撃や!!)


 四体目。


 もう縮んでいる。


「早っ!?」


 咄嗟にしゃがむ。


 頭上を青い塊が通り抜けた。


 風圧が髪を揺らす。


「っぶね……!」


 振り向く。


 今度は二体いっぺんに縮んでいた。


「うわ、マジかっ!?」


 右。


 左。


 レオは左へ踏み込む。


 あえて左のスライムを剣で受けた。


 どんっ!!


 衝撃。


 そのまま身体を回す。


 流す。


 弾かれたスライムがもう片方へぶつかった。


 ぐにゃっ。


「今や!!」


 レオは前へ出て、剣を突き出す。


 ざくっ!!


 二体同時に突き刺さる。


 爆散する。


「……倒した!」


 だが止まらない。


 爆散したスライム達の向こう側。


 まだ別の一体が縮んでいた。


 とっさに横へ飛ぶ。


 避けた直後。


 さらに別の一体が飛び込んでくる。


 真正面。


 今度は避けない。


「うおらっ!!」


 ぶより、とした感触。


 その直後、腕に重い衝撃が突き抜けた。


 しかし、そのまま押し込む。


 ざくっ!!


 爆散する。


「よっしゃ!!」


 残り一体。


 呼吸が荒い。


 だが見える。


(いける……!)


 レオは剣を構えた。


「終わりやぁ!!」


 両者すれ違う。


 レオの顔が切れる。


 スライムが爆散する。


「……」


 静かになる。


 レオはしばらくその場で固まっていた。


「……勝った?」


 一拍。


「……勝ったぁぁぁぁ!!」


 剣を掲げる。


「見たか王様ぁ!!」


 だがその時。


 ざわり。


「……ん?」


 草むらが揺れる。


 さらり、と現れる。


 オレンジ色のスライム。


「……なんやお前……そういえば前もおったな……?」


 普通のスライムより少し大きい。


 表面が妙にさらさらしていた。


「まあでも、スライムやろ?」


 レオは剣を構える。


「今の俺なら――」


 オレンジスライムが、ぶるりと震えた。


 横回転。


「……は?」


 草を巻き込みながら、スライムが跳ぶ。


 レオは剣を前に出した。


 だが。


 軌道が曲がった。


「は?」


 どごっ!!


「がっ!?」


 横っ腹に直撃。


 吹き飛ぶ。


「な、なんや今の――」


 起き上がる前に。


 オレンジスライムが縦に回転した。


「今度はなん――」


 跳ぶ。


 上から落ちてくる。


 レオは寸前で上体を大きく反らした。


 風を切る。


「よっしゃ――」


 次の瞬間。


 地面へ叩きつけられたスライムが、そのまま跳ね返った。


「は?」


 どんっ!!


「ぐぇっ!!」


 視界が白く弾けた。


 ――酒場。


「アスタリアー、ビール!」


「はーい」


 皿を運びながら、アスタリアはちらりと水晶を見る。


 草むら。


 オレンジ色のスライム。


 倒れるレオ。


「……へぇ」


 小さく目を細める。


「アスタリアー!」


「はーい」


 何事もなかったように笑う。


 水晶の中では、草むらが静かに揺れていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


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