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世界、調整後

「久しぶりね」


振り向いた先、そこに女が立っていた。


「……誰や?」


思わず出た言葉に、女はくすりと笑う。


「ひどいわね。忘れちゃったの?」


「いや……」


レオは眉をひそめる。


女は小さくため息をついた。


「結婚の約束までしたのに……ほんと、最低ね」


その一言で、繋がる。


「……お前」


「アスタリアか!?」


女はにこりと笑った。


「正解」


レオはしばらく固まったまま、頭をかく。


「……全然わからんかったわ」


アスタリアは軽く肩をすくめる。


「そうでしょうね」


レオはじっと顔を見る。


「……いやでも」


少しだけ間を置く。


「俺の記憶のアスタリア、もっとこう……」


手で小さくジェスチャーする。


「おとなしめっていうか……」


「こんな感じちゃうかった気がするんやけど……」


アスタリアは一瞬きょとんとして、すぐにくすりと笑った。


「相変わらず、失礼ね」


「いやほんまに」


「昔は昔よ」


さらりと言う。


「人は変わるの」


「変わりすぎやろ」


「そうかしら?」


にこり、と笑う。


「で、なんでおんねん」


「引っ越してきたのよ」


さらりと言う。


「……どこに」


「そこ」


指差された先は、かつてアスタリアが住んでいた酒場だった。


「マジかよ」


レオはぽかんと口を開ける。


「じゃあ、カイトの言ってたやつって……」


「さっきカイトにも会ったし、多分そうね」


アスタリアは少しだけ笑う。


「嬉しいでしょ?」


「美人の婚約者がいる店なんて」


レオが一瞬止まる。


「……自分で言うか、普通」


顔が熱い。


頭を掻いていると、


「入らないの?」


「いや、まだ開いてへんやろ」


「片づけよ」


「今から!?」


「そうよ」


――酒場の中。


ほこりっぽい空気が漂い、長く使われていなかった時間がそのまま残っている。


「……うわ」


レオが顔をしかめる。


「これ、片づけで済むレベルちゃうやろ」


「そうね」


「これ全部、ひとりでやる予定やったんか?」


「手伝ってくれるんでしょ?」


にこり、と笑う。


「いやなんでやねん」


「だって、久しぶりの再会でしょ?」


「それ関係ある?」


「あるわよ」


「どこに!?」


ため息をつきながらも、レオは袖をまくる。


「……しゃーないな」


――しばらく後。


「はぁ……」


レオは床に座り込む。


「今日の分はこんなもんか……」


「あら、全部やっててくれないの?」


「無理に決まってるやろ!!」


「それもそうね」


「最初からわかってたやろ!!その反応!!」


アスタリアは肩をすくめる。


「ま、明日また手伝ってくれればいいか」


「もしかしてすでに決定事項!?」


レオは天井を見上げる。


「ほんまにここでやるんやな」


「ええ」


「客来るんか?」


「当り前よ」


「?」


「美味しいもの出すし、店主はかわいいんだから」


「……否定できんのが腹立つわ」


レオはあきれながらも納得する。


「で?」


アスタリアが手を止める。


「あなた、普段なにしてるの?」


「ん?」


レオは少し考える。


「まあ……一応、勇者やってるで」


「へえ」


「でもなぁ」


レオは頭をかく。


「仲間とか、どうしたらええんやろな」


「いないの?」


レオは即答する。


「おらん」


「候補も?」


レオは首を振る。


「おらんねん」


「どうして?」


レオは少しだけ視線を落とす。


「……まあ、色々や」


「じゃあ私が探してあげる」


「は?」


「せっかく店やるんだし、客の話くらい聞けるでしょ」


「いや勝手に決めるなや!!」


レオは思わず立ち上がる。


「俺の意思どこいった!?」


「あるわよ」


アスタリアはあっさり言う。


「今は必要ないだけで」


「つまりないってことやん!?」


レオは大きくため息をつく。


少しだけ間を置く。


「……行ってくる」


「どこに?」


「外や」


肩を回す。


「一体なら、いける」


「そう」


アスタリアは止めない。


ただ、少しだけ目を細める。


「いってらっしゃい」


――町外れの草むら。


辺りはすでに真っ暗になっていた。


「……おるな」


ぬるり、と現れるスライム。


「……よし」


構える。


踏み込み、不意をつく。


全力で殴る。


ぐしゃっ。


スライムが弾けた。


ざわり。


気配が、増える。


二体。


三体。


四体。


レオは一瞬だけ天を仰ぐ。


(あ、無理や)


「ちょっとは優しくしてくれたらうれしいな」


――王城。


「勇者よ。死んでしまうとは情けない」


いつもの口上を聞きながら、ゆっくりと起き上がる。


レオの口元は、少しだけ、緩んでいた。


「でもまあ……」


頭をかく。


「一体倒せたから今回はええわ!」


王は一瞬だけ止まる。


そして一言。


「進歩ではあるな」


レオは少しだけ得意げに笑う。


「そうやろ?」


「しかし誤差だ!」


……


「おい、言い方!!」


「なら言い方を変えてやろ。この無能が!!」


「いや、言い過ぎだろ!!」


王は大きくため息をつく。


「ええ加減、さっさと隣町ぐらい行ってこい」


「こんな時間に呼び出されるこっちの身にもなってみろ。わしも歳なのだ、寝たいのだ」


「それはすみません……」


レオはしょんぼりと頭を下げ、そのまま王城を後にする。


――帰り道。


通りすがりの兵士が、手を振ってくる。


「あっ、噂の勇者さんだ!こんばんわー!スライム倒すの頑張ってくださいねー!」


レオは足を止める。


「……」


少しだけ間。


「……煽っとるやろそれ」


レオはため息をつく。


「……まあええわ」


少しだけ、口元が緩む。


「一体は、いけたな」


そのまま、ゆっくりと歩き出した。


――翌朝。


片付けを手伝おうと、酒場へ向かう。


店の前で、レオは足を止めた。


「……は?」


思わず声が出る。


昨日まで埃だらけだった店が、見違えるほど綺麗になっていた。


「なんやこれ……」


扉を開ける。


中も同じだった。


床も、カウンターも、全部整っている。


「昨日、あんなにボロボロやったやん……」


奥から、包丁の音。


規則正しく、何かを刻む音が聞こえる。


ふっと、その音が止まる。


「もう来たの?」


アスタリアが奥から出てくる。


「まだ準備中よ」


カウンターの上には、切りかけの食材。


「おはよう」


「……おう」


「いやそれよりも、なんでこんな綺麗になってんねん!?」


レオは店内を見渡す。


「これどうしたんや、マジで!?」


「見て分からないの?」


「あぁ、町のみんなが手伝ってくれたのよ」


「は?」


「みんなに笑顔で頼めば、喜んで手伝ってくれたわよ?」


「いやそんな軽いノリで!?」


レオは呆然と店内を見る。


「……無敵かよ」


「そうよ?」


「ついでに、いい話も拾えたわ」


「……話?」


アスタリアはカウンターに紙を置く。


「仲間になってくれる人よ」


レオはそれを覗き込む。


「……ほんまに集めてるやん」


「当然でしょ?」


レオを見る。


「スライムの話も少し聞いたわ」


「……あ?」


「囲まれるなら、最初から数減らせばいいのよ」


さらりと言う。


「一体ずつ引っ張るとかね」


「それができたら苦労せんわ」


少しだけ間。


「……まあ、やってみるけど」


紙を見る。


「何食ったらこんな仕事できんねん、ほんまに」


アスタリアは笑う。


「面白くなりそうでしょ?」


レオは紙を置く。


「まあでも、いらんけどな」


「は?」


アスタリアが眉をひそめる。


「なんで?」


レオは少しだけ視線を逸らす。


「……一人でええねん」


「どうして?」


少しだけ間。


レオは何も言わない。


「……別にええやろ」


レオは軽く手を振る。


「ちょっと試してくる」


「何を?」


「さっき言うてたやつ」


肩を回す。


「一体ずつ引っ張るってやつ」


「あぁ、あれね」


「うまくいったら褒めてや」


「考えておくわ」


「そこは即答せえや」


レオはため息をつく。


「ほな、行ってくる」


「いってらっしゃい」


――町外れの草むら。


「……おるな」


草の奥で、ぬるりと動く気配。


レオは一歩だけ踏み出す。


「……一体ずつ、やな」


少しだけ間。


「やってみるか」

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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