世界、調整中
早朝。
王城に続く道。
出店の準備や喧騒のなか、一人の女が歩いていた。
その整いすぎた顔立ちに、みな手が止まる。
野菜を並べていた店主も、思わず手を止め、荷を運ぶ者も、その姿に見入っている。
「……少し、鬱陶しいわね」
小さく呟く。
次の瞬間、その気配が、ふっと薄れた。
誰も、それに気づかない。
止まっていた手が、何事もなかったかのように動き出す。
――
迷子の猫を送り届けたあと、もらったパンを抱えながら、レオとカイトはいつもの通りを歩く。
「さっきは手伝ってくれてありがとな、カイト」
「いいって別に。お前が困ってる人見ると手を貸すの、いつものことだろ」
「なんかいつもすまんな。ほら、こいつやるよ」
レオはパンを一つ差し出す。
「おっ、サンキューな」
受け取って、軽く振ってみせる。
「そういや知ってるか?」とカイトが言う。
「ん?」
「今度、このメイン通りの、誰も使ってない酒場に人が越してくるみたいでさ」
「あぁ、あっこな」
レオはパンを口に運びながら、気のない返事をする。
「そうそう、お前の婚約者が住んでたところだよ」
「いやそれは、子供のころのはな――」
「まあそんなことより女だったら最高だな!通う理由もできるし」
「いや、話聞けよ」
馬車が横切るのに、二人は少し足を止める。
「で、このあとどうするんだ?」
「んー……もっかい外の様子見てくるわ」
「おっ?俺も一緒に付いてってやろうか?」
「ええて、別に」
「なんでだよ」
レオはパンを飲み込む。
「いや、俺が死んだら王様のとこに戻るねんけどさ」
「へぇ」
「でも王様が言うには、パーティ組んだやつが死んだら棺桶に詰められるらしいねん」
カイトが顔をしかめる。
「……本当か?それ」
「まあ、俺パーティ組んだことないから、知らんけど」
軽く手を上げて、カイトに別れを告げた。
――町外れのいつもの草むら。
(なんやえらい静かや……)
レオは足を止めた。
思わず、警戒する。
いつもなら、草むらの奥でぬるりと動くスライムたちの気配がある。
だが今日は、それがない。
風の音だけが、やけに耳につく。
周囲を見渡す。
足元の草が、ところどころ倒れている。
踏み荒らされたというより――押し潰されたような跡。
ぬめりは乾ききっておらず、わずかに光を反射している。
「……なんやこれ」
眉をひそめる。
――まあ、ええか。
警戒を緩めようとした、その瞬間。
――!
かすかに、妙な鳴き声がした。
――ぷるるっ。
「……ん?」
音のした方へ、目を細める。
スライムが一体。
ただ――
「……オレンジ?」
いつものそれとは、明らかに色が違う。
表面はべとついておらず、粉をまぶしたようにさらりとしている。
ころん、とわずかに弾む。
――ぷるるー、ぷるるー。
(やべえ、気付かれた。)
一歩、踏み出す。
「まあでも五体よりは楽勝やろ」
――
死んだ。
――王城。
「勇者よ。死んでしまうとは情けない」
「何回もうるさいわ!!」
玉座を離れ、レオは王城を出る。
その途中。
すれ違う兵士たちが、ちらりとこちらを見る。
「また死んだのか」
「早すぎだろ……」
小さな声が、耳に入る。
(気まず……てか、こいつらスライム倒せんのかよ)
(じゃあ、お前らが世界救えよ)
街へ戻る。
ふと、あの酒場の前を通りかかる。
まだ誰もいないはずの場所。
ふと、懐かしいにおいがした。
(……今のは)
その直後――
「久しぶりね」
振り向くと、そこには女が一人、立っていた。
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