回転、調整前
――酒場。
「いや無理やろあれ!!」
昼前の酒場に、レオの声が響く。
カウンター席へ突っ伏しながら、レオは机をばんばん叩いた。
「曲がんねんぞ!?」
「店の中で暴れないで」
アスタリアは淡々と皿を拭いている。
「いやそれでな!! スライムがこう……ぐるんって!」
レオは立ち上がり、その場で身体を回した。
「それで避けたと思ったら横から――」
ぐるん。
「――どごぉっ!! や!!」
「いい加減にしなさい」
カウンター越しに、おたまで頭を叩かれた。
「いったぁ!?」
「料理中なんだけど?」
「今のそこまでせんでもよかったやん!!」
「必要よ。危ないもの」
「それはすまん……」
「まったく……おたま、洗わないと」
レオは肩を落とす。
そこへ、入口のベルが鳴った。
「よう! アスタリア……どうしたんだ? そんな顔して」
カイトだった。
「聞いてくれカイト!!」
レオが勢いよく振り返る。
「この前言ってたオレンジのやつ、また出てきてん!」
「オレンジ?」
「しかも回る!!」
「……回る?」
「せや!!」
レオは再びその場で回転した。
「こう、横にぐるーんって!」
「店内では暴れないでって」
「ぐぇっ」
また頭を叩かれた。
「君たちは、いつも仲がいいね」
「そうか? でもカイトと俺ほどではないけどな///」
「そうね」
アスタリアは普通に頷いた。
「せやろ!!」
「デキてると思ってたもの」
「なわけないやろ!!」
「あら、そうなの?」
「それぐらい仲がいいって思われてるなら、うれしいよ」
カイトは苦笑した。
「アスタリアー、注文いいかー?」
「はーい、今行くから少し待ってて」
アスタリアは席を離れる。
「ところでレオ、さっきの続きは?」
待ってましたと言わんばかりに、レオは立ち上がった。
「それがな、避けた思ったら曲がってくんねん!」
「へぇ……」
「しかも今度は上から来て、地面ぶつかった思ったらもう一回来てん!!」
「曲がったり、跳ね返るか……」
カイトが少し眉をひそめた。
「なんか攻略法知らんか?」
「似たような話は知ってる」
「マジか!! 教えて!!」
「ただ、それは弓のアーツなんだよね」
「アーツ?」
レオは首をかしげる。
「レオ、おばさんとかから聞いたことないのか?」
「ないよ? たぶん」
「たぶんって……」
カイトは苦笑した。
「……冒険者が使う、特技というか技みたいなものだよ」
「ほう?」
「その人の特性に合わせた異能、魔術や魔法とは別系統の技術」
戻ってきたアスタリアが言う。
「異能? 技術?」
「要するにその人用の必殺技だね」
「なにそれ……カッケェ......」
「レオって魔法とかも使えないの?」
「いや? マミーもパピーも、勇者が魔法を使うなんて末代までの恥晒しだって言ってたし」
「変わった家庭ね」
「まっまあレオの家は割とパワー系だったからね」
カイトも頷いた。
「カイト、それはフォローのつもりか?」
「もちろん!」
「まあええわ。で、そのアーツって攻略できるんか?」
「アーツにもよるけど、癖はあるよ」
「癖?」
「動き方に特徴が出る。今の話だと、そのオレンジも攻撃するたびに回転してるんだよね?」
「せやな」
レオが止まる。
「じゃあ、その回転自体になにか意味があるはずだよ」
「ほう」
「だからまずはそこしっかり見た方がいいかもね」
「なるほどなぁ……」
レオは腕を組む。
「つまり俺もアーツを――」
「まず生き残ること考えなさい」
アスタリアが、拭いた皿を置きながら言った。
「うっ」
「技覚えたって、死んだら意味ないでしょう?」
「正論やめろ」
「でも、今のレオなら行けるんじゃない?」
カイトが笑う。
「前よりちゃんと見えてるし」
「……せやな」
レオは立ち上がる。
「よし!」
剣を掴む。
「今日こそ、あのオレンジ攻略したる!!」
「店ではやめてね」
「オレンジは店にはおらんわ!!」
――町外れ。
「アーツ……必殺技……」
町を出ながら、レオはぶつぶつ呟いていた。
「カッコええなぁ……」
剣を振る。
「勇者やし、なんか俺にもこう……ズバァン!! みたいなんあるんちゃうか?」
レオはその場で剣を振り抜いた。
ぶんっ。
「……」
何も起きない。
「いやまあ、そら急には出んか」
気を取り直して歩く。
やがて見慣れた草むらが見えてきた。
「さて、と」
レオは深く息を吐く。
「とりあえずお前らやったな」
ざわり。
青いスライム達が草むらから現れる。
「……今日も五体か」
一体目が縮む。
(まずはお前やな!)
飛んできたスライムをレオは半歩ずれて躱し、そのまま斬り裂いた。
バシャッ。
「よし!」
二体目が飛び込んでくる。
「うおらっ!!」
レオは剣を振り抜いた。
どんっ!!
ぶつかったスライムが、そのまま別方向へ吹き飛ぶ。
ちょうど飛び込んできた三体目へ直撃した。
ぐしゃっ!!
「おぉっ!?」
二体まとめて弾け飛ぶ。
左右に展開していた残り二体が、同時に飛び込んでくる。
「遅い!」
一閃。
二体まとめて弾け飛んだ。
「ふぅ……」
レオは剣を肩へ担ぐ。
「こいつらは、もう慣れたな」
その時。
ざわり。
「……来たな」
草むらの奥。
ぬるりと、オレンジ色のスライムが姿を現した。
レオは剣を構えなおす。
「今日こそ攻略したるからな」
オレンジスライムが、ぶるりと震えた。
(回転をよく見ないと……!)
レオは剣を構え直す。
横回転。
草を巻き込みながら、オレンジスライムが跳ぶ。
「来たっ!!」
レオは慌てて横へ飛ぶ。
直後。
オレンジスライムの軌道が途中で曲がった。
「うおっ!?」
頬を掠める。
「っぶな……!」
だが避けた。
レオはすぐに振り向く。
オレンジスライムが着地する。
ぶるり。
(次は……!)
「……ん?」
さっきと回転の向きが違う。
今度は縦。
「来るっ!!」
オレンジスライムが勢いよく地面へ叩きつけられる。
どんっ!!
土が跳ねた。
「からの――」
ぼよんっ!!
「来るっ!!」
レオは剣を前へ出す。
どんっ!!
「ぐっ……!!」
重い衝撃。
だが今回は吹き飛ばされない。
「止め……た?」
レオは目を見開く。
オレンジスライムが地面へ落ちる。
(横は曲がる……縦は跳ねる……?)
レオは息を整える。
「なるほどなぁ……!」
オレンジスライムが再び震える。
今度は横回転。
「よし、来い!」
レオは少し早めに右へ飛んだ。
だが。
オレンジスライムは逆方向へ曲がった。
「そっちぃ!?」
慌てて剣を前へ出す。
どんっ!!
「ぐっ……!!」
重い。
レオはそのまま地面を滑る。
「くそっ……曲がる方向まで違うんか……!」
オレンジスライムが着地する。
再び震える。
レオはふらつきながら立ち上がった。
「でも今……ちょっと分かってきたぞ……!」
横回転。
曲がる。
縦回転。
跳ねる。
レオは剣を握り直す。
オレンジは縮んでいた。
「――あ」
直後。
視界が夕焼けに染まっていた。
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