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色彩搾取の灰色世界で、不器用な魔女は鉄の騎士に命を捧ぐ 〜クロマティック・ウィッチ〜  作者: w.t.
16.5章:強欲の女王、盤上の蹂躙 

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第3節:略奪と黄金の鍵

私の右腕が、かつてないほどの熱量で爆ぜました。


失った血液の代わりに、怒りが、欲望が、血管を逆流して満たしていく。


「赤」の魔力が、私を照らしていた黄金のスポットライトを物理的に食い破り、会場全体をどす黒い夜の色へと塗り替えていきます。


私の言葉が終わるのを待たず、会場の闇が蠢きました。


右腕の「赤」が、血管を伝って指先から噴き出し、物理的な質量を持って室内をなぎ払います。


派手な服を着た男たちの銃火器も、高価なシャンデリアも、私の意思一つで「機能」を奪われ、バラバラと崩れ去っていきました。


「ひ、ひいぃっ! 化け物だ、化け物が出たぞ!」


さっきまで私を「至高の宝石」と称えていた男たちが、今は蜘蛛の子を散らすように出口へと群がっています。


(ハル)もまた、持っていたシリンダーを取り落とし、腰を抜かして後退っていました。


私はゆっくりと鳥籠の前へ歩み寄りました。


鉄格子など、今の私には枯れ木同然です。


魔力の風が触れるだけで、飴細工のように捻じ切れ、弾け飛びました。


「私のリア。……迎えに来ましたよ」


鉄格子の向こう側。


小さな体を震わせて蹲っていたリアが、ゆっくりと顔を上げました。


その瞳を見た瞬間、私は息を呑みました。


「……あ」


リアの瞳。


琥珀色だったはずの彼女の瞳が、今はカジノの照明よりも深く、どろりとした「黄金アウルム」に染まっていたのです。


彼女は私を見て、安心したように微笑みました。


けれど、その笑顔はいつもの無邪気なものではありませんでした。


「……マシロ、おねえちゃん。……あれ、ほしい」


リアが震える指で指し示したのは、舞台の奥、破壊された金庫室から転がり落ちた「黄色の色相結晶」。


この街の強欲を吸い込み、脈打つ心臓のように輝くその石に呼応するように、リアの体から黄金色の細い糸が伸び、周囲に転がっている富豪たちの「色素」を無理やり引き抜き始めました。


「ほしいの……ぜんぶ、リアのもの。おねえちゃんと、リアのもの……」


リアの洗脳された「聖女」としての本能が、私の「赤」と、この街の「黄」に当てられて暴走を始めています。


救い出したはずの少女が、今や私以上に貪欲に、周囲の命を「吸い上げて」いる。


彼女の中にある、幼い日の両親の教え。


黄金こそが救いであり、全てを満たす光であるという刷り込みが、結晶と共鳴しているのです。


「リア……? 何を……」


私がその小さな肩に手をかけようとした瞬間、私の右腕の結晶もまた、歓喜するように激しく拍動しました。



(――そうだ。すべて奪って、一つになればいい)


頭の中に響くのは、私の声か、それともカルミナの声か。


私は、リアと一緒に「黄色」の結晶を掴み取るべく、吸い寄せられるように手を伸ばしました。


「ま、待て! それを抜くんじゃない!!」


悲鳴のような絶叫が響きました。


見れば、ハルが顔面を蒼白にさせ、ガタガタと震える指で結晶を指差していました。


「それはただの景品じゃない! このパレスの地盤を固定し、全ての電力を賄う要石(メイン・プラグ)なんだ! それを引き抜けば、この建物ごと生き埋めになるぞ!!」


ヴェールさんが、瓦礫を蹴り飛ばしながらステージへ駆け上がってきました。


「……そういうことかよ。街のエネルギーを独占して、自分だけ黄金の城にふんぞり返ってたわけか。……おいマシロ、今のうちに手を離せ!」


「……リア、それを離して」


私は、自分の声が震えているのに気づきました。


でも、身体が止まらない。


リアの小さな手が、脈打つ「黄」の結晶に触れようとしています。


彼女の瞳は、もう私を見てはいませんでした。


そして、私の右腕も。


結晶に呼応し、皮膚の下で黒い痣が蠢き、叫んでいます。


(奪え。すべて。そうすれば、もう何も怖くない。アイゼンだっていらないくらい、強くなれる)

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