第2節:二つの至宝
まばゆい光が、私の閉じた瞼を無理やりこじ開けました。
そこは、地下都市の欲望を煮詰めたような巨大なホールでした。
円形劇場のステージ。
私は黒い服を着た男たちによって、ゴミ袋のようにその中央へ放り出されました。
「……ぐ、ぅ……」
失血で霞む視界。指一本動かせない倦怠感。
けれど、強烈なスポットライトと、地鳴りのような歓声が、私を現実に引き戻します。
客席を埋め尽くすのは、仮面をつけた富豪たち。
彼らの視線は、ステージ上の「商品」に突き刺さっています。
私の目の前には、黄金の鳥籠がありました。
その中で、豪奢なドレスを着せられたリアが、膝を抱えて震えています。
「……マシロ、おねえ……ちゃん?」
リアが顔を上げ、私を見て泣きそうな声を上げました。
ボロボロのローブ。泥と血にまみれた姿。
助けに来たはずの私が、無様に転がされている。
「さあ、紳士淑女の諸君! 今夜のサプライズだ!」
春の声が、マイクを通して響き渡りました。
彼はステージの袖で、私の腕から抜き取ったばかりの「血液の入ったシリンダー」を掲げてみせました。
「まずは、この希少な魔女の血! 一滴で万病を癒し、若返らせる奇跡の霊薬だ。……だが、それだけじゃない」
ハルが扇子で私を指しました。
「この『器』そのものも、極上だと思わないかい?」
その言葉に、最前列にいた派手な服の男――おそらく大富豪の一人が、食い入るように身を乗り出しました。
男は、自分の指先が灰色に死にかけていることさえ忘れ、恍惚とした表情で私を指差しました。
「……待て。なんだ、そいつは。左右対称の完璧な骨格、陶器のような肌……。おい、ライトをもっとこいつに当てろ!」
パッ、と暴力的なまでの光が私を追加で射抜きました。
下卑た視線が、一斉に私をなめ回します。
「信じられん。あの銀髪のガキも極上だと思っていたが……こいつは別格だ。地下に流れてくるような代物じゃない。……地上の、それも色彩の塔の最上層に飾られていてもおかしくない『完成品』だぞ」
男の口角が、醜く吊り上がりました。
「予定変更だ! その血まみれの娘もセットにしろ。傷つけるなよ、その肌に一筋でも傷がついたら、お前らの命で償わせる。……銀と白。二つ揃えて『姉妹の女神』として競りにかける。これはオーラム・ヴァレー始まって以来の伝説になるぞ!」
客席から、地鳴りのような歓声と口笛が沸き起こりました。
彼らの目に映っている私は、もはや人間ですらない。ただの、高く売れる「ガラス細工」。
(……ああ。また、これだ)
血の気が引いた頭の中で、冷たい思考だけが研ぎ澄まされていきます。
どいつもこいつも。
私を、部品として、資源として、商品としてしか見ない。
私は、あなたたちの所有物じゃない。
私は、アイゼンの、アイゼンだけの――。
ゆらり。
私は、震える膝に力を込め、立ち上がりました。
「……いいですよ」
私は、ふっと微笑みました。
それは慈悲でも諦めでもなく、完膚なきまでに目の前のすべてを「否定」するための笑み。
「私を『商品』として扱いたいなら、どうぞ。……その代わり、その身に余る強欲ごと、皆様をまとめて灰にして差し上げます」
カルミナのように、いいえ――“母様”のように、私は淡々と告げました。




