第1節:鮮血の|回転盤《ルーレット》
カラカラカラ……。
乾いた音が、静まり返った貴賓室に響き渡ります。
回転するルーレット盤。象牙のボールが、数字のポケットを弾きながら踊っています。
「――黒の24」
春が、歌うような声で告げました。
私がチップを山積みにしていたのは、「赤」のエリアでした。
「おや残念。また外れだねえ」
ハルが指揮者のように指を振ると、黒服の男が私の腕に繋がれたチューブのコックを捻りました。
チュウウゥ……。
不快な音と共に、私の血管から鮮血が吸い上げられていきます 。
ガラスのシリンダーが赤く満たされ、それが目の前で「黒いチップ」へと変換され、ハルの手元へと回収されていきました。
「っ……う、ぅ……」
指先が痺れ、視界が白く明滅しました。
これで、何回連続で外したでしょうか。
チップ一枚につき、血液が小さいグラス1杯分抜かれていく。
すでに私の体からは、致死量に近い血液が失われていました。
寒い。骨の髄まで凍りつくように寒い 。
「おい、いい加減にしろ!」
たまらず、背後で見ていたヴェールさんが叫びました。
「イカサマだ! 今の玉の動き、ありえねぇだろ! 落ちる直前に軌道が曲がりやがった!」
「人聞きが悪いねえ」
ハルは扇子で口元を隠し、冷やかに笑いました。
「ここは私の城だよ? 重力も、運命も、すべてオーナーである私に従うのが『ルール』さ」
「てめぇ……!」
ヴェールさんが短剣に手をかけようとしますが、即座に黒服たちが銃口を突きつけます。
「やめて、ヴェールさん……」
私は震える声で制止しました。
テーブルに突っ伏したまま、霞む目でハルを睨み上げます。
分かっていました。最初から、まともな勝負になるはずがないことくらい。
それでも、座るしかなかった。
「……まだ、です。まだ血は……残って、ます」
「マシロ、もうやめろ! それ以上抜かれたらショック死するぞ!」
「やめません……! リアを、返すまでは……」
私は残ったチップ――私の命の残りカスを、震える手で掴みました。
けれど、指に力が入らず、チップがカチャリと床に転がり落ちました。
「あ……」
それを拾おうとして、私の体もバランスを崩し、椅子から転げ落ちました。
床の冷たさが、頬に張り付きます。
起き上がろうとしても、手足が鉛のように重くて動かない。
「……そこまでだね」
ハルが、コツ、コツ、とヒールの音を響かせて近づいてきました。
彼は床に這いつくばる私を見下ろし、陶酔したような表情で頬を染めました。
「美しいねえ……。血を失って透き通るような肌。虚ろな瞳。今のあんたは、最高に『壊れかけ』でそそるよ」
ハルの指先が、私の顎をすくい上げました。
「チップは尽きた。……さあ、契約履行の時間だ。その身体で払ってもらおうか」
「……っ、はな、して……」
「連れて行きな。ちょうど、階下のホールで競売が始まるところだ。『黄金の瞳』の隣に、この『魔女の残骸』を並べるとしよう。……セット売りなら、さらに値が跳ね上がるはずだ」
ハルが指を鳴らすと、黒服たちが私を乱暴に引き起こしました。
抵抗する力はありません。
ヴェールさんが叫ぶ声が聞こえましたが、鈍い打撃音と共に途切れました。
(ああ……だめ……)
意識が遠のく中、私はズルズルと引きずられていきました。
光溢れる、地獄のステージへと。




