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色彩搾取の灰色世界で、不器用な魔女は鉄の騎士に命を捧ぐ 〜クロマティック・ウィッチ〜  作者: w.t.
16章:『黄のカジノ(強欲)』

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第5節:悪魔の査定

通されたのは、最上階に近い貴賓室でした。


重厚な扉が閉まると、外の喧騒が嘘のように遮断されます。


部屋の中央には、ルーレット台が一台。


そして、壁際のガラスケースには――拳大の大きさを持つ、黄金色の宝石が飾られていました。


(……結晶!)


間違いありません。私の右腕が焼けるように反応しています。

(※設定参照:右腕は既に肩まで侵食され、次の色相に身体が先行反応している )


私たちが探していた「黄(強欲)」の色相結晶。まさか、こんな場所にあるなんて。


「おや、そっちが気になるのかい?」


(ハル)がソファに腰を下ろし、グラスを傾けました。


「この街の地下から掘り出された、高純度のエネルギー鉱石さ。今夜の『強欲のルーレット』、その優勝賞品としてオーナーが出品したものだよ」


「……リアは」


私は宝石から視線を外し、ハルを睨みました。


ハルはリモコンを操作し、壁のモニターを点灯させました。


そこには、豪華な客室で、大量のお菓子に囲まれて怯えているリアの姿が映っていました。


「安心しな。傷ひとつ付けてないよ。……なにせ、今夜の『特玉(目玉商品)』なんだからね」


「商品……」


「そうさ。あの宝石を狙う富豪たちの、余興の競売に出される予定だ」


ハルは、グラスの縁を指でなぞりながら、ねっとりとした視線で私を見ました。


その視線は、私の顔から首筋、そして泥にまみれたローブの下の身体のラインまでを、舌で這うように舐め回しました。


「……ふむ。近くで見ると、あんたも悪くないね。泥を落として、薄いシルク一枚着せて飾れば……地下の男たちが喉から手を出して欲しがる『極上の夜伽(ごくじょうのよとぎ)』になる」


ゾワリ、と背筋に嫌なものが走りました。


値踏みされている。人間としてではなく、消費される「肉」として。


「返して欲しければ、買い戻すしかない。……で? いくら持ってるんだい?」


ヴェールさんが懐を探りますが、出てきたのは小銭程度の銀貨だけ。


ハルはそれを見て、冷やかに鼻を鳴らしました。


「話にならないね。あの子の『黄金の瞳』は、国が一つ買える値段がつく。そんなはした金じゃ、指一本触れさせられないよ」


「……くそっ」


ヴェールさんが悔しげに拳を握りしめます。


金がない。力がない。


このままでは、リアは売り飛ばされ、宝石も誰かの手に渡ってしまう。


それだけは。


それだけは、絶対に嫌だ。


(……代価。代価が必要なのね)


私は震える息を吐き出し、一歩前へ出ました。


金よりも重く、この強欲な男が興味を示すもの。


「……待ってください」


私は黒服たちを睨みつけながら、ハルに向かって声を張り上げました。


そして、テーブルの上にあった果物ナイフを掴み取ります。


「おいマシロ!? 何する気だ!」


「……私は魔女です。この体には、世界で最も純度の高い『色』が流れています」


迷いはありませんでした。


私はナイフの刃を、自分の左手の指先に突き立てました。


プツリ。


赤い血が、緑色の羅紗(ラシャ)が張られたゲームテーブルの上に落ちます。


それは照明を反射して、虹色に揺らめく不思議な輝きを放ちました。


「……ほう」


ハルの目の色が、変わりました。


ただの小娘を見る目から、値打ちのある「資源」を見る目へ。そして征服欲をそそる「獲物」を見る目へ。


彼は立ち上がり、私の指先から滴る血を指で掬い、唇に当てました。


「甘いね。……極上の蜜だ」


「私の血一滴を、チップ一枚に変えなさい」


「……自分の『寿命』を賭けるって言うのかい? それとも、負けたらその身体ごと私のコレクションになる覚悟はあるのかい?」



「ええ。リアを返してもらう。そして……あの宝石も、頂きます」


私はモニターの中のリアと、ケースの中の宝石を交互に見据えました。


強欲。


そう、これが強欲なら、私はそのルールに乗ってやる。


「……ハハッ! いいねぇ、狂ってるねぇ!」


その瞳には、美しい花を散らしたくてたまらない、サディスティックな欲望が宿っていました。


ハルが立ち上がり、嬉しそうに手を叩きました。


「自分の命も貞操も切り売りする女、嫌いじゃないよ。……交渉成立だ」


ハルがディーラーの席に立ち、真っ黒なチップの山をテーブルに広げました。


「歓迎しよう、地獄の遊戯盤(カジノ)へ。……せいぜい、干からびるまで踊っておくれよ?」


(第16章 「黄のカジノ(強欲)」 完)

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