第4節:再会のカルテット
カジノホテル『ゴールデン・パレス』。
正面玄関は、要塞のように厳重でした。
屈強な黒服たちが目を光らせ、身なりのいい客だけを選別して通しています。
私たちが近づこうとすると、すぐに警備員の一人が手をかざし、行く手を阻みました。
「会員証は?」
「……ない。だが、中に連れが間違って運ばれた可能性がある。確認させろ」
ヴェールさんが低い声で交渉しますが、警備員は鼻で笑いました。
「毎日来るんだよ、お前みたいなのが。『家族を返せ』『借金をチャラにしろ』……。悪いが、一度中に入った『物』は、オーナーの所有物だ。失せろ」
「そこを何とか……」
「失せろと言っている!」
警護棒が振り上げられた、その時です。
自動ドアが開き、紫煙と共に、数人の取り巻きを連れた人物が出てきました。
「――騒々しいねえ。私の店の前で」
甘く、気怠げな声。
極彩色の着物を流麗に着こなし、孔雀の扇子を揺らすその姿。
「……春?」
ヴェールさんが驚愕に目を見開きました。
春。以前ネオン街で検問を仕切っていた、あの顔役です。
ハルは私たちに気づくと、細い眉を少しだけ上げ、妖艶に微笑みました。
「おやおや。どこのドブネズミかと思えば……ヴェールちゃんじゃないか。それに、指名手配のお嬢ちゃんも」
「てめぇ……なんでここにいる」
「商売だよ。ここは景気がいいからね。私はここの『仕入れ』を任されているんだ」
ハルは扇子で口元を隠し、私をじろりと見ました。
「……で? 血相変えて、何のご用だい?」
「リアを返して! 銀髪で、金色の目をした小さな女の子……さっき、この中に運び込まれたはずなの!」
私が叫ぶと、ハルの目がすうっと細められました。
彼はゆっくりと歩み寄り、私の顔を覗き込みました。
「ああ……さっきあがってきた『特上の迷子』かい? 黄金の瞳を持つ、可愛らしい……」
「知っているのね!? どこ!? 返して!」
「返して、か」
ハルは呆れたように肩をすくめました。
「勘違いしないでくれよ。私は攫ったわけじゃない。この街のシステムが回収した『所有者不明品』を、正規のルートで買い取って、商品として磨き上げただけさ」
「ふざけないで! あの子は人間よ!」
「ここでは、値札がついた瞬間から『商品』なのさ」
ハルが背を向け、カジノの中へ戻ろうとします。
私は反射的に、その着物の袖を掴みました。
「待って! お願い、返して……!」
黒服たちが私を取り押さえようとします。
けれど、ハルはそれを片手で制しました。
彼は私の必死な形相と、そして袖口から覗く「黒い右腕」を見て、何かを計算するように目を細めました。
(※設定参照:痣は既に肘を越え、肩へと這い上がっている )
「……ふむ。金はなさそうだね。だが、その『執着』は面白い」
「ハルさん。取引だ」
ヴェールさんが割り込みました。
「俺たちを中に入れろ。……金なら、勝って払う」
「ハハッ! カジノで稼いで身請けかい? 三流小説みたいだねえ」
ハルは楽しそうに笑い、扇子で私たちを招きました。
「いいだろう。古い馴染みのよしみだ。……ついてきな。ちょうど今夜、面白い『賭け』のテーブルが空いているんだ」




