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色彩搾取の灰色世界で、不器用な魔女は鉄の騎士に命を捧ぐ 〜クロマティック・ウィッチ〜  作者: w.t.
13章:『灰の海、くろがねの棺』

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第1節:『凍てつく別れと、残酷な宣告』

 ガガガガ……。重苦しいタイヤの音が、狭い通路に響き渡ります。ヴィオラさんの遠隔操作に導かれ、私たちの乗る「装甲車」は、廃棄区画の奥深く――彼女の工房(アトリエ)へと滑り込みました。

 そこは、ガラクタと配線が支配する、薄暗い鉄の森。天井からぶら下がる無数のケーブル。積み上げられた機械のパーツ。その中央にある巨大な円筒形のカプセルが、青白く発光しながら口を開けて待っていました。


「……到着よ直。そこへ彼を入れなさい」


 スピーカー越しではなく、直接、彼女の声が響きました。煙草の紫煙をくゆらせながら、ヴィオラさんが多脚椅子ごと降りてきます。その顔には、いつもの皮肉な笑みはなく、技術者としての厳しい眼差しだけがありました。


「……はい」


 私は頷き、装甲車の後部を開けました。クレーンが唸りを上げ、揺籃(クレイドル)を吊り上げます。凍りついた棺が、空中でゆっくりと旋回し、工房の――遮断層(シェルター)へと収められていきます。

 プシューッ……。シェルターの扉が閉じられ、冷却液が満たされていきました。分厚いガラス越しに見えるアイゼンは、まるで深い海の底に沈んでいくようでした。


 もう、触れることはできません。

 冷たい装甲に額を当てることも、その手を握ることも。


「あいぜん、おやすみ……」


 私の横で、リアがガラスに小さな手を押し当てました。彼女なりに、これが長いお別れだと理解しているのでしょう。


「……四ヶ月よ」


 ヴィオラさんが、カプセルの制御盤を操作しながら告げました。

 モニターに『SYSTEM FREEZE:STABLE(凍結安定)』の文字が浮かび上がります。


「この遮断層は、塔のメインシステムから切り離された独立電源で動いている。私の命が尽きても、四ヶ月間だけは彼をこのままの状態で保存できる。……けれど、それ以上は保証できない」


「はい……」


 私はガラスに手を添えました。冷気で白く曇る向こう側で、アイゼンが静かに眠っています。


(行ってきます、アイゼン)


 言葉にはしませんでした。ただ、心の中で強く念じます。

 次に会う時は、貴方を氷の中から助け出し、その瞳に光を灯してみせる。

 だから、少しだけ待っていて。


「……それと、もう一つ」


 ヴィオラさんが、咥えていた煙草を携帯灰皿に押し付け、鋭い視線を私に向けました。彼女は懐からタブレット端末を取り出し、私の目の前に突きつけました。画面に映っていたのは、真っ赤な警告色で塗りつぶされた人体図。――私の、右腕の解析データでした。


「お前、薄々は気づいているんだろう? その右腕の黒い痣が、ただの怪我じゃないってことに」


「……はい。……使うたびに、広がっています。熱くて、時々、自分の腕じゃないみたいに脈打って……」


 私は、袖を捲り上げました。肘まで達した黒い結晶の根。それは、工房の冷たい空気の中でも、ドクン、ドクンと不気味に蠢いています。


「単刀直入に言うぞ。それは器の壊死(えし)だ」


 ヴィオラさんの言葉は、氷のように冷徹でした。


「お前は人間じゃない」

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