第1節:『凍てつく別れと、残酷な宣告』
ガガガガ……。重苦しいタイヤの音が、狭い通路に響き渡ります。ヴィオラさんの遠隔操作に導かれ、私たちの乗る「装甲車」は、廃棄区画の奥深く――彼女の工房へと滑り込みました。
そこは、ガラクタと配線が支配する、薄暗い鉄の森。天井からぶら下がる無数のケーブル。積み上げられた機械のパーツ。その中央にある巨大な円筒形のカプセルが、青白く発光しながら口を開けて待っていました。
「……到着よ直。そこへ彼を入れなさい」
スピーカー越しではなく、直接、彼女の声が響きました。煙草の紫煙をくゆらせながら、ヴィオラさんが多脚椅子ごと降りてきます。その顔には、いつもの皮肉な笑みはなく、技術者としての厳しい眼差しだけがありました。
「……はい」
私は頷き、装甲車の後部を開けました。クレーンが唸りを上げ、揺籃を吊り上げます。凍りついた棺が、空中でゆっくりと旋回し、工房の――遮断層へと収められていきます。
プシューッ……。シェルターの扉が閉じられ、冷却液が満たされていきました。分厚いガラス越しに見えるアイゼンは、まるで深い海の底に沈んでいくようでした。
もう、触れることはできません。
冷たい装甲に額を当てることも、その手を握ることも。
「あいぜん、おやすみ……」
私の横で、リアがガラスに小さな手を押し当てました。彼女なりに、これが長いお別れだと理解しているのでしょう。
「……四ヶ月よ」
ヴィオラさんが、カプセルの制御盤を操作しながら告げました。
モニターに『SYSTEM FREEZE:STABLE(凍結安定)』の文字が浮かび上がります。
「この遮断層は、塔のメインシステムから切り離された独立電源で動いている。私の命が尽きても、四ヶ月間だけは彼をこのままの状態で保存できる。……けれど、それ以上は保証できない」
「はい……」
私はガラスに手を添えました。冷気で白く曇る向こう側で、アイゼンが静かに眠っています。
(行ってきます、アイゼン)
言葉にはしませんでした。ただ、心の中で強く念じます。
次に会う時は、貴方を氷の中から助け出し、その瞳に光を灯してみせる。
だから、少しだけ待っていて。
「……それと、もう一つ」
ヴィオラさんが、咥えていた煙草を携帯灰皿に押し付け、鋭い視線を私に向けました。彼女は懐からタブレット端末を取り出し、私の目の前に突きつけました。画面に映っていたのは、真っ赤な警告色で塗りつぶされた人体図。――私の、右腕の解析データでした。
「お前、薄々は気づいているんだろう? その右腕の黒い痣が、ただの怪我じゃないってことに」
「……はい。……使うたびに、広がっています。熱くて、時々、自分の腕じゃないみたいに脈打って……」
私は、袖を捲り上げました。肘まで達した黒い結晶の根。それは、工房の冷たい空気の中でも、ドクン、ドクンと不気味に蠢いています。
「単刀直入に言うぞ。それは器の壊死だ」
ヴィオラさんの言葉は、氷のように冷徹でした。
「お前は人間じゃない」




