第4節:融合(マザー・システム)
そして、運命の夜が訪れた。
カーマインの肉体的な寿命が、限界を迎えようとしていたのだ。
「姉さん、やめて! お願いだから!」
制御室で、ヴィオラはなりふり構わず姉の腰に縋り付いた。
彼女はもう、設計者としての顔をしていない。ただの、姉を失うことを恐れる一人の妹だった。
「そんなことをすれば、二度と人間に戻れなくなる! 一緒に歳を取るって約束したじゃない! お婆ちゃんになって、暖炉の前で昔話をするんじゃなかったの!?」
ヴィオラの涙が、姉のドレスを濡らす。
けれどカーマインは、自らの身体を塔の中枢システム「純正炉」に接続する手を止めなかった。
美しいドレスの下から、無数の管とコードが蛇のように伸び、彼女の細い手足に、首筋に、腹部に突き刺さっていく。
「いいのよ、ヴィオラ」
ズプ、ズプリ、と肉が機械に食い破られる音が響く。
鮮血が床に広がるが、カーマインの表情は、痛々しいほどに穏やかだった。
「私が死ねば、この楽園は維持できない。……だから、私が塔になるわ。私がシステムになって、あの子たちを永遠に抱きしめてあげる」
「間違ってる……! それは愛じゃない、ただの飼いならしよ!」
「いいえ、愛よ。傷つけないことが、最高の愛だもの」
「嫌だ! 世界なんてどうでもいい! 私は姉さんがいなきゃ嫌なのよ!」
ヴィオラは姉の冷たくなっていく手を握りしめた。
その指先は、既に人の体温を失い、硬質なセラミックのような感触に変わっていた。
「置いていかないで……独りにしないでよ、カーマイン……ッ!」
「愛しているわ、ヴィオラ」
バキンッ、と骨が砕ける音がした。
姉の優しい声は、そこで途切れた。
彼女の下半身が、玉座という名の巨大な演算機と完全に癒着する。
人の肉体としての機能は死に絶え、瞳は深紅から、感情を持たない琥珀色に凪いでいった。
そして、膨大な魔力と演算データの光が、彼女の網膜を無機質に駆け巡り始めた。
紅の魔女カーマインは死んだ。
ここに、永遠の管理者カルミナが誕生したのだ。




