第3節:小さな芽吹きと、握り潰された希望
閉ざされた塔の中だけは、永遠の春が続いていた。
カーマインの魔法によって管理された人工楽園。人々は恐怖を忘れ、穏やかに暮らしていた。
それから数年後。
「姉さん、見て!」
ヴィオラが研究室に飛び込んできた。彼女の手には、培養カプセルに入った「何か」が握られている。
「外の観測機から回収したの。見て、これ!」
それは、弱々しいけれど、確かに緑色をした「双葉」だった。
「土壌の浄化が進んでいるわ。自然治癒力が戻り始めたのよ! これなら、あと数年でゲートを開けられるかもしれない!」
ヴィオラは希望に瞳を輝かせていた。
けれど、玉座に座るカーマインの反応は、冷ややかだった。
「……捨ててしまいなさい」
「え?」
「その芽を見たら、人間たちはまた外へ出たがるわ」
カーマインはカプセルを奪い取ると、蓋を開け、その華奢な緑の芽を指先で摘まんだ。
「外に出れば、また奪い合いが始まる。また色が枯渇して、あの子たちは砂になって死ぬ。……そんなの、可哀想でしょう?」
「姉さん、何を言って……それが生きるということよ! 失敗から学んで、やり直せばいいじゃない!」
「いいえ。やり直す必要なんてない」
プチリ。
湿った音が響いた。
カーマインの指先で、希望の緑がすり潰され、ドロリとした濃緑の汁が、まるで血のように彼女の白い肌を汚した。
「ここは安全よ。飢えも、寒さも、死の恐怖もない。……私が永遠に管理してあげる。だから、外なんて地獄は必要ないの」
その笑顔は慈愛に満ちていたが、ヴィオラは背筋が凍るのを感じた。
姉はもう、人類の未来なんて見ていない。
彼女が見ているのは「傷つかない現在」だけだ。




