第2節:0色目の絶望
けれど、終わりは予測よりも早く訪れた。
ある日突然、空から青が消えた。
続いて森から緑が抜け落ち、大地から茶色が蒸発した。
色彩を失った物質は、分子結合を保てずにサラサラと崩壊を始める。大理石の柱が、レンガの家が、そして逃げ惑う人々の皮膚が、灰色の砂となって崩れ落ちていく。
「急いで! ゲートを閉めるのよ!」
塔の制御室で、ヴィオラが叫んだ。
モニターには、塔へ押し寄せる群衆が映っている。だが、彼らの後ろからは、全てを無に帰す「灰色の波」が迫っていた。
「待って! まだあの子たちが!」
カーマインは操作盤にしがみつき、閉鎖ボタンを押すのを拒んだ。
画面の向こう。一人の母親が、幼い子供を抱えて走っている。あと少し。あと数メートルでゲートに届く。
「ダメよ! 今閉めないと、塔の中の備蓄まで汚染される! 全員死ぬことになるわ!」
「嫌! 見捨てられない!」
「姉さんッ!!」
ヴィオラは姉を突き飛ばし、自らの手でレバーを引いた。
ガゴン、と重厚な隔壁が落下する。
その瞬間だった。
分厚いガラス越しに、カーマインは見てしまった。
閉ざされたゲートを叩く、小さな子供の手。
その指先から、色が抜けていくのを。
助けを求める叫び声が、砂の流れる音に変わるのを。
数秒前まで温かかった命が、汚れとして風にさらわれていくのを。
「あ……ああ……」
カーマインは膝から崩れ落ちた。
彼女の中で、何かが決定的に砕け散る音がした。
「……ごめんなさい。ごめんなさい……私が弱かったから。私が間に合わなかったから……」
彼女は爪が剥がれるほど床を掻きむしり、懺悔した。
その慟哭は、やがて静かで歪な決意へと変わっていった。
(もう二度と、あの子たちを死なせない。……もう二度と)




