第1節:希望の設計図(アルカイック・ブルー)
―――これは、世界がまだ色鮮やかだった頃の、古い記憶。
石造りのバルコニーで、二人の魔女が並んで夕日を見つめていた。
燃えるような赤、溶け合う橙。それは息を呑むほど美しい光景だったけれど、二人の表情は優れなかった。
「……減っているわ」
ポツリと、紫の瞳をした妹――ヴィオラが呟く。
「先月の採掘量と、大気中の色素濃度を照らし合わせたの。計算通りよ。今の消費ペースが続けば、あと十年で『色彩崩壊』が起きる。……世界はモノクロになって、砂に還るわ」
ヴィオラが示した羊皮紙には、残酷な未来を示すグラフが描かれていた。
隣に立つ姉、カーマインは、悲しげに眉を寄せた。
「街の人たちは夜通しランプを灯し、噴水の色を変えて笑っているわ。……警告しても、誰も信じてくれない。色は無限の資源だと思い込んでいるもの」
「馬鹿な連中ね。自分たちが、自分たちの明日を食い潰していることにも気づかないなんて」
ヴィオラは苛立ちを隠さずに吐き捨てたが、姉は静かに首を横に振った。
「責めないであげて、ヴィオラ。彼らはただ、今日という日を少しでも明るく生きたいだけなのよ。……だから、私たちが守りましょう」
カーマインは、建設中の巨大な白い塔を見上げ、聖母のように微笑んだ。
「あの塔に、世界の種を保存するの。嵐が過ぎ去るまで、命を繋ぐための『箱舟』を」
その時の姉の笑顔に、嘘はなかった。
狂気など欠片もない、純粋な善意と愛だけが、そこにはあった。




