表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
色彩搾取の灰色世界で、不器用な魔女は鉄の騎士に命を捧ぐ 〜クロマティック・ウィッチ〜  作者: w.t.
12章:『三つの鍵と、一人の魔女』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/164

第2節:『魔女の地図と、七つの呪い』

「え……?」

 私の体の中に、入っていた?


「……推測だけど、間違いないわ」


 ヴィオラさんが、自分に言い聞かせるように頷きました。


「姉さんの考えそうなことよ。それに、塔のデータはずっと監視していたから、辻褄が合う」


『姉さんは世界から奪った7つの感情いろを、あなたという器に「祝福」として注ぎ込んでいた。でも、あの墜落事故で器にヒビが入り……中身がすべて飛び散ってしまった』


『今のあなたは、中身のない硝子細工。ID(アイディー)は持っているけれど、肝心のバッテリーが空っぽの状態よ』


 その時でした。

 突然、通信回線に激しいノイズが走り、ヴィオラさんの声が遮断されました。伝声管から、あの甘く、背筋が凍るような声が割り込みます。


『――あら、ヴィオラ。相変わらず詰めが甘いわね』


『……姉さん!』


 投影面のノイズが晴れ、そこには嘲笑うような光の揺らぎだけが表示されています。カルミナです。


『マシロ――いいえ、イリス。教えてあげるわ。あなたが落とした7色が、今どこにあるか』


 カルミナの声と共に、強烈な閃光が走りました。


「……ッ、うぁ!」


 私は両目を覆いました。視界ではなく、脳裏に直接、映像が焼き付けられます。

 広大な荒野の地図。そこに、毒々しいほど鮮やかに輝く「7つの光点」がくさびのように打ち込まれていく感覚。

 鉄錆の眠る廃墟の底に「赤」。沈んだ図書館の冷たい水底に「青」。腐り落ちた樹海の奥深くに「緑」……。


『見えたでしょう? それが、あなたの失くしもの』


 カルミナの声が、脳内に直接響きます。


『あれは300年前、私が世界から奪い、封印したもの。……それを300年かけてろ過して、あなたの身体に少しずつ移し替えていたのよ。なのに、あの墜落で器が割れて、中身がまた世界中の「元の場所」へ逃げ帰ってしまった。……本当に、手のかかる子ね』


 頭痛と共に焼き付いた地図データは、瞬きをしても消えません。

 私たちが命がけで越えてきた砂漠や廃墟。それを、もう一度? 今度は世界中を?


「……どうして」


 私は、震える声で尋ねました。


「そんなに大事なものなら、どうして回収しなかったんですか? あなたの力なら、すぐに集められたはずです」


『あら、私が取りに行っても意味がないのよ』


 カルミナは、駄々っ子を諭すように言いました。


『その結晶には、面倒な“条件”をかけてあるの。カルミナの血を引く者が、自らの意志(自由意志)で触れない限り、決して実体化しない。……命令されただけの人形(騎士)や、塔から動けない私には、決して掴めない果実なのよ』


 そこまで言って、ヴィオラさんがハッとしたように息を呑みました。


『そうか……姉さん、あなたは最初から“二重”に縛っていたのね』


『私には論理鍵しか渡さないことで、単独での起動を封じる。そして結晶(燃料)には“自由意志”という呪いをかけて、命令で動く部下には回収させない。……誰も、あなたの許可なく純正炉を使えないように』


『ええ、そうよ。完璧なセキュリティでしょう?』


 カルミナが愉しげに笑います。


『でも、嬉しい誤算だったわ。300年間、失敗作を作り続けて……十数年前にようやく完成した最高傑作イリスが、まさか自分の足で外に出ていくなんて』


『無理やり行かせても意味がない。……でも、今のあの子には「動機」があるでしょう?』


 カルミナの甘い声が、私の耳元で囁くように響きました。


『アイゼンを助けたい。その壊れた鉄屑を愛している――その「強い願い」こそが、封印を解く唯一の鍵。……皮肉よね? あなたが彼を愛すれば愛するほど、私の望む「完全な器」へと近づいていくのだから』


『イリス。あなたが7色を集める旅は、ただの「お使い」じゃない。私の愛を受け入れるための、最後の調理プロセスよ』


『赤の怒りを、青の哀しみを、黄の欲望を――全ての色を「経験」し、その身に取り込みなさい。……そして7色が揃った瞬間、あなたは「完成」する』


「完成……?」


『ええ。7色を統合した完璧な神の器として。そうすれば、もう二度と離れ離れにはならない。あなたの小さな自我マシロは消え、私と溶け合い、塔の心臓として一つになるの。……素晴らしいでしょう?』


 心臓を、冷たい手で握りつぶされたような感覚でした。

 7色を集めれば、純正炉が動き、アイゼンは助かる。

 けれど、それは私が私でなくなり、彼女の一部として飲み込まれることを意味していました。それは死よりも恐ろしい、永遠の消失。


『さあ、選びなさい。私の可愛いイリス。そこで壊れた玩具と一緒に朽ち果てるか。それとも、私の愛を受け入れて(ひとつになって)……その子を直すか』


 ブツン、と通信が切れました。

 残されたのは、絶望的な沈黙と、網膜に焼き付いた7つの光点だけ。


「……最悪だ」


 ヴェールさんが呻くように言いました。


「完全に掌の上じゃねえか。行けば思う壺、行かなきゃ終わり。……どうすんだよ、これ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ