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色彩搾取の灰色世界で、不器用な魔女は鉄の騎士に命を捧ぐ 〜クロマティック・ウィッチ〜  作者: w.t.
12章:『三つの鍵と、一人の魔女』

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第1節:『拒絶された希望』

 工場を支配していた不快な高音が止み、重苦しい沈黙だけが残されました。

 純正炉の制御盤に設置された巨大な投影硝子スクリーンには、ノイズ混じりの映像でヴィオラさんが映し出されています。彼女は無言のまま、手元の操作台を絶え間なく動かし続けていました。

 永遠にも感じる沈黙の後、硝子の向こうのヴィオラさんが、重い溜息と共に解析用眼鏡モノクルを外しました。


『……マシロ、聞いて』


 壁に張り巡らされた伝声管から響く声は、硬く、冷たいものでした。


『アイゼンは、直せるわ』


 私は息を呑みました。死にかけていた心臓が、早鐘を打ち始めます。


「本当ですか!?」


『ええ。魂定着層(ソウル・レイヤー)の劣化は深刻だけど、純正炉の再結晶化プロセスなら、崩れかけた自我を焼き直せる。……ただし』


 ヴィオラさんの声が、希望を打ち消すように低く沈みました。


『純正炉が、起動しない』


「……どういう、ことですか?」


 ヴィオラさんが操作盤を叩くと、硝子板に巨大な三つの『錠前ロック』のアイコンが浮かび上がりました。


『純正炉は、ただの修理装置じゃない。あれは「魂」を扱う神の領域の設備よ。起動には、厳重な「三要素認証」が必要なの』


 ヴィオラさんが指を立てて説明します。カタカタ、と彼女がキーを叩く音が響きます。


『一つ目は、論理鍵ロジック・キー。これは私が持っている停止コードでクリア』


 左端の錠前が、カシャリと音を立てて**『緑色グリーン』**に点灯しました。


『二つ目は、生体鍵バイオ・キー。……これは、あなたたちがクリアした』


 中央の錠前もまた、緑色に変わり、解錠されます。


『炉に触れていいのは、カルミナの血族であるリア、もしくはカルミナの因子を持つイリスだけ。だから今、制御盤までは操作できているわ』


 あと一つ。すべてが緑になれば、アイゼンは助かる。私は祈るように右端のアイコンを見つめました。けれど。


 ブブーッ、ブブーッ。

 無機質な拒絶音が響き、最後の右端――七色の虹を模したアイコンだけが、血のような『レッド』に激しく明滅し始めました。硝子板に、『認証拒絶:スペクトル不足』の文字が焼き付きます。


『……でも、三つ目が足りない』


「三つ目?」


『色相認証鍵――通称「7色の結晶」。赤・橙・黄・緑・青・藍・紫。この世界の感情の源泉たる7つの結晶が揃わないと、炉に火が入らない』


「なっ……」


 ヴェールさんが絶句し、食ってかかりました。


「ふざけんな! ここまで来て、燃料切れで動きませんってか? そいつはどこにあるんだよ!」


『ここ(塔)にはないわ』


 ヴィオラさんは、事実を淡々と告げました。


『あれは300年前、姉さんが世界から奪い、封印したもの。……それを長い時間をかけて濃縮し、完成した「器」であるあなたに注ぎ込んでいたのよ』


 ヴィオラさんの視線が、私の胸元――空っぽの心を射抜くように突き刺さりました。


『本来なら、マシロ。あなたの身体の中に、すべて入っていたはずのものよ。……それが墜落のショックで、また世界中に飛び散ってしまった』

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