表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
色彩搾取の灰色世界で、不器用な魔女は鉄の騎士に命を捧ぐ 〜クロマティック・ウィッチ〜  作者: w.t.
10章:単色層への招待状

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/164

第3節:聖女の掌

 灰色の並木道を抜けると、広大なホールのような空間に辿り着きました。


『そこが中層への昇降機だ』


 ヴィオラさんの声。中央の操作盤だけが、微かに赤い明滅を繰り返しています。


『……待ちなさい。生体反応の登録を確認している。おそらく――』


 その時でした。ピィィィン――。甲高い電子音が響き、操作盤の光が赤から黄色に変わりました。


『まずいわ。警備システムが起動する』


 ヴィオラさんの警告と同時。ズゥン、と重い振動が走り、ホールの天井から何かが落下してきました。着地の衝撃で、灰色のタイルが砕け散ります。

 舞い上がる粉塵の中から現れたのは、球体をベースにした、多脚戦車のようなシルエット。その中央にある単眼のカメラが、ギョロリと回転し、私たちを捉えました。


『警告。未登録の生体反応を検知』


 合成音声が、冷たく響きます。


『及び、廃棄指定個体――登録名アルジェント、回収対象として確認。――上層部へ報告中』


「……ッ!」


『待て、マシロ』


 ヴィオラさんの声が、通信機から鋭く響きました。


『アルジェントが検知された。姉さんに報告が行く』


 私は左手でリアをアイゼンの背後へ押しやりました。ヴェールさんが舌打ちをして、短剣を抜きます。

 その時でした。ピィィ――ン。

 警備兵の単眼が、一瞬だけ黄色く明滅し――停止しました。


『……報告受理。当該個体保留、自律行動を許可。監視継続』


「……あ?」


 ヴェールさんが眉をひそめます。攻撃態勢を解いた警備兵は、私たちを睨み据えたまま、微動だにしません。ただ、単眼のカメラだけが、ゆっくりと私たちを追い続けています。


『……変』


 ヴィオラさんの声が、珍しく困惑を含んでいました。


『アルジェントは廃棄指定のはず。即座に破壊命令が出るはずなのに――』


 沈黙。


『未登録の生体反応……? 塔の住人は全員、登録されている。外部から来た者なら、即座に排除される。なのに"監視継続"だと……?』


「どういうことだよ、ババア」


「エラーじゃない。……基本命令デフォルトが、最上位権限アドミニストレータで上書きされている」


『……姉さん。姉さんが、何かを確認したがっている』


 ヴィオラさんの声が、低く響きました。


『アルジェントと一緒にいる"お前たち"を、だ。理由は分からない。だけど、姉さんが何も知らずに見逃すはずがない』


 私は息を呑みました。背中を、冷たい視線が這い上がるような感覚。


『……マシロ、聞きなさい』


 ヴィオラさんの声が、一段低くなりました。


『姉さんは、あんたたちを泳がせている。ここで止めるより、もっと奥へ――純正炉へ来させる方が、あいつにとって都合がいいからだ』


「つまり、俺たちは手のひらの上、ってわけか」


 ヴェールさんが吐き捨てます。


『そういうこと。……引き返すなら、今のうちだよ』


 私は、アイゼンの冷たい装甲に触れました。引き返す? それはできません。アイゼンを直すには、純正炉へ行くしかないのです。たとえそれが、罠だと分かっていても。


「……行きます」


 私は、静かに答えました。


『……そう』


 ヴィオラさんが、短冊く息を吐きました。


『なら、死ぬんじゃないよ。……部品が足りないなら、また拾ってきてあげるから』


 通信が、プツリと途切れました。

 警備兵の単眼が、私たちを追い続けています。アイゼンが一歩前に出ました。その背中が、私たちを庇うように広がります。低い駆動音。青い瞳が、敵を睨み据えました。


「……行きますよ、アイゼン」


 私は左手で、彼の冷たい装甲に触れました。監視されている。待ち受けられている。それでも、前に進むしかありません。ここからは、塔の「管理」に抗う戦いです。


第10章 「単色層への招待状」 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ