表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
色彩搾取の灰色世界で、不器用な魔女は鉄の騎士に命を捧ぐ 〜クロマティック・ウィッチ〜  作者: w.t.
10章:単色層への招待状

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/164

第2節:統一の並木道

 分厚い隔壁が重苦しい音を立てて開ききると、そこには奇妙な風景が広がっていました。廃棄区画のような、錆と腐敗の匂いはありません。代わりに鼻を突いたのは、無菌室のような、冷たく乾いた無臭の空気でした。


「……うわ。何だこりゃ」


 ヴェールさんが鼻に皺を寄せ、嫌悪感を露わにします。

 目の前に広がっていたのは、手入れの行き届いた「森」でした。ただし、そこには「色彩の乱れ」が一切ありません。並んでいる木々は、すべて同じ高さ、同じ太さ。茂る葉は、まるで工業製品のように均一な「薄緑色ペールグリーン」で塗りつぶされています。枯れた茶色もなければ、新芽の鮮やかな黄緑もない。足元の草花までもが、たった一色のペンキで塗られた舞台セットのように、のっぺりと広がっていました。天井は高く、曇り空を模したような白い照明が、影のない均一な光を落としていました。


『――ようこそ、塔の最下層、一般居住区へ』


 耳元の通信機から、ヴィオラさんの乾いた声が響きます。


『かつては労働階級のための緑地エリアだった場所だ。……今は"省エネモード"で、必要最低限の維持機能しか動いていないようだがね』


「……人が、住んでいたんですか? ここに……」


 私は鈍くなった右腕を庇いながら、慎重に足を踏み入れました。地面は硬く舗装されていますが、その感触すら冷ややかです。風も吹かず、虫の音もしない。ただ、整然と並ぶ灰色の街路樹と、同じ形をした四角いベンチが、墓標のように並んでいるだけ。

 ギュッ、と左手が強く握られました。見下ろすと、リアが青ざめた顔で私の手にしがみついています。


「……ここ、きらい。いろがへん……」


 リアの声が震えています。呼吸が浅く、速い。彼女の黄金(おうごん)の瞳が、まるで溺れるように周囲を彷徨っていました。


「おねえちゃん……なんか、むかむかする……」


「大丈夫、リア。すぐに抜けるから」


 私は彼女を抱き寄せました。色彩を糧とする私たちにとって、この空間は味のしない流動食を無理やり喉に流し込まれているようなものです。死にはしない。けれど、生きている心地もしない。肌にまとわりつく「生ぬるい均一さ」が、生理的な息苦しさを生んでいました。


「おい、気味が悪いくらい静かだな」


 ヴェールさんが短剣の柄に手をかけ、周囲を警戒します。


「チリ一つ落ちてねぇ。……誰かが掃除してるはずだが、人っ子一人いねぇぞ」


 カサ、カサ……。

 風もないのに、作り物めいた葉が擦れる音だけが響きます。誰もいない。けれど、管理の視線だけが濃厚に漂っている。ここに在るのは平和ではなく、思考の停止した「静止」です。


「……行きましょう」


 私は足早にその場を離れました。この無機質な森を抜ければ、中層への入り口があるはずです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ