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色彩搾取の灰色世界で、不器用な魔女は鉄の騎士に命を捧ぐ 〜クロマティック・ウィッチ〜  作者: w.t.
9章:硝子の手と錆びた規律

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第2節:化石の都

 休憩を終え、私たちは再び歩き出しました。


 ヴェールさんを先頭に、アイゼンが最後尾を守ります。その(なか)に私とリアが挟まる陣形です。

 暗渠あんきょの湿った石造りの通路を抜けると、空気の質がガラリと変わりました。乾いた(ほこり)と、酸化した金属の匂い。――そこは、巨大な空洞でした。


 「……うわぁ」


 リアが小さな悲鳴を上げ、私の服の裾をギュッと掴みます。

 私たちの目の前には、理解不能な「墓場」が広がっていました。


 天井が見えないほど高い空間に、太い鉄骨が肋骨のように突き出しています。地面には二本の鉄の線路がどこまでも伸びており、その上には、巨大な鉄の箱が何台も連なって横たわっていました。窓ガラスはすべて割れ、ひしゃげた車体は、まるで干からびた大蛇の死骸のようです。


 「……昔の人の『走る箱』の跡地か。ひでぇ有様だな」


 ヴェールさんが短剣の柄で、カツンと近くの看板を叩きました。泥にまみれたその板には、擦り切れた文字の断片と、色褪せた矢印だけが辛うじて残っています。


 「ここ、だれか住んでたの?」


 リアが怯えた声で尋ねます。


 「ああ。三百年前、塔ができる前の連中がな。……もっとも、今は別の『住人』の巣窟だが」


 ヴェールさんの視線の先を見て、私は息を呑みました。

 崩れかけた壁のガラス窓。その向こうに、「人間」が立っていました。


 ――いいえ、人間ではありません。


 色の抜けた石膏せっこうか何かで作られた、無表情な人形です。かつては華やかな服を着せられていたのでしょう。それらは今、(すす)とカビに覆われ、あるものは腕がなく、あるものは首が床に転がっています。けれど、その立ち姿だけは、生きた人間を気味が悪いほど忠実になぞっていました。


 (……似てる)


 ふと、嫌な考えが頭をよぎりました。心を持たず、ただ飾られ、役目を終えれば捨てられるだけの空っぽの(うつわ)。それは、塔にいた頃の私――そして、偽物の記憶を与えられて笑っていた時のリアの姿と、どこか重なって見えたのです。


 ズキリ。

 右腕の黒結晶が、警告のように疼きました。この場所は、「色」がとうの昔に死んでいます 。空間を満たす色彩の気配が、淀んだ水たまりのように重く濁って、腐っているのが分かりました。


 「……マシロおねえちゃん?」


 私の足が止まったことに気づき、リアが顔を覗き込んできます。


 「なんでもな――」


 言いかけた、その時でした。

 ギィイイイイ。

 静寂を裂いて、耳障りな金属音が響きました。風の音ではありません。線路の上に横たわる鉄の箱の腹の中からです。

 ガシャン、と重い足音が一つ。


 私の背後で、アイゼンが即座にリアを庇うように展開しました。その瞳が、穏やかなあおから、血のような赤へと瞬時に切り替わります。


 「……チッ、お出ましだな、お客様」


 ヴェールさんが短剣を抜き、舌打ちをしました。

 割れた窓の奥。暗闇の中から、ゆらりと「それ」が姿を現しました。

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