第2節:化石の都
休憩を終え、私たちは再び歩き出しました。
ヴェールさんを先頭に、アイゼンが最後尾を守ります。その間に私とリアが挟まる陣形です。
暗渠の湿った石造りの通路を抜けると、空気の質がガラリと変わりました。乾いた埃と、酸化した金属の匂い。――そこは、巨大な空洞でした。
「……うわぁ」
リアが小さな悲鳴を上げ、私の服の裾をギュッと掴みます。
私たちの目の前には、理解不能な「墓場」が広がっていました。
天井が見えないほど高い空間に、太い鉄骨が肋骨のように突き出しています。地面には二本の鉄の線路がどこまでも伸びており、その上には、巨大な鉄の箱が何台も連なって横たわっていました。窓ガラスはすべて割れ、ひしゃげた車体は、まるで干からびた大蛇の死骸のようです。
「……昔の人の『走る箱』の跡地か。ひでぇ有様だな」
ヴェールさんが短剣の柄で、カツンと近くの看板を叩きました。泥にまみれたその板には、擦り切れた文字の断片と、色褪せた矢印だけが辛うじて残っています。
「ここ、だれか住んでたの?」
リアが怯えた声で尋ねます。
「ああ。三百年前、塔ができる前の連中がな。……もっとも、今は別の『住人』の巣窟だが」
ヴェールさんの視線の先を見て、私は息を呑みました。
崩れかけた壁のガラス窓。その向こうに、「人間」が立っていました。
――いいえ、人間ではありません。
色の抜けた石膏か何かで作られた、無表情な人形です。かつては華やかな服を着せられていたのでしょう。それらは今、煤とカビに覆われ、あるものは腕がなく、あるものは首が床に転がっています。けれど、その立ち姿だけは、生きた人間を気味が悪いほど忠実になぞっていました。
(……似てる)
ふと、嫌な考えが頭をよぎりました。心を持たず、ただ飾られ、役目を終えれば捨てられるだけの空っぽの器。それは、塔にいた頃の私――そして、偽物の記憶を与えられて笑っていた時のリアの姿と、どこか重なって見えたのです。
ズキリ。
右腕の黒結晶が、警告のように疼きました。この場所は、「色」がとうの昔に死んでいます 。空間を満たす色彩の気配が、淀んだ水たまりのように重く濁って、腐っているのが分かりました。
「……マシロおねえちゃん?」
私の足が止まったことに気づき、リアが顔を覗き込んできます。
「なんでもな――」
言いかけた、その時でした。
ギィイイイイ。
静寂を裂いて、耳障りな金属音が響きました。風の音ではありません。線路の上に横たわる鉄の箱の腹の中からです。
ガシャン、と重い足音が一つ。
私の背後で、アイゼンが即座にリアを庇うように展開しました。その瞳が、穏やかな蒼から、血のような赤へと瞬時に切り替わります。
「……チッ、お出ましだな、お客様」
ヴェールさんが短剣を抜き、舌打ちをしました。
割れた窓の奥。暗闇の中から、ゆらりと「それ」が姿を現しました。




