第2節:偽りの記憶
「……熱いですね」
そう呟いた私の指先は、自分でも驚くほど氷のように冷え切っていました。膝の上で横たわるリアの額には、大粒の汗が浮かんでいます。黄金色の瞳は濁り、苦しげに開閉される唇からは、ヒュウ、ヒュウと、細い笛のような呼吸が漏れていました。
数刻前、彼女が不用意に触れてしまった砂の死体。そこに残留していた「色」のカスが、逆流するように彼女の小さな器へ流れ込んでしまったのです。他者の記憶、他者の未練。それは純粋すぎる彼女にとって、致死性の毒と同じでした。
「ヴェールさん、もっと火を」
「……無茶言うな。ここは塔の排気ダクトの近くだ。これ以上火を焚けば、巡回機に見つかるぞ」
ヴェールさんは忌々しげに言いながらも、自分のボロボロのコートをリアの上に投げかけました。彼の指先からも、砂のような「色」が絶え間なくこぼれ落ちています。彼もまた、慢性的な色不足(飢え)に凍えているはずでした。
私は、震えるリアの小さな手を握りしめます。
「おかあさん……いいこに、するから……。いろ、かえしたよ……。だから、わらって……」
うわ言。それは、彼女を縛る洗脳の鎖が立てる軋み音でした。彼女の両親が、彼女を守るためではなく、塔への忠誠を示すために命(色)を捧げたという、残酷な真実。それを「美談」として書き換えられた偽りの記憶が、熱に浮かされた彼女の内側で、今にも弾けそうに膨れています。
アイゼンが、静かに私の隣へ跪きました。古い機械油と錆の匂いが、不思議と私の荒れた心を凪がせます。彼は何も言いません。ただ、その巨大な鉄の指先をリアの頬に近づけようとして――自分の指が冷たすぎることに気づいたのか、途中で動きを止めました。
「アイゼン、大丈夫ですよ」
私は彼に微笑みかけ、それから、自分の右腕を見つめました。服の袖に隠されたその腕は、指先から肘にかけて、どす黒い結晶が醜く侵食しています。
(これを……使えば、リアを救える)
けれど、それは同時に、彼女が必死に守り続けてきた「幸せな偽物」を破壊することでもあります。ヴィオラさんは言いました。私は、色を循環させるために作られた『部品』なのだと。なら、これは私の機能であり、存在理由なのでしょう。
命を繋ぎ止めることは、同時に、封じ込められた地獄の記憶をも呼び覚ます「暴力」なのです。
「……マシロ?」
ヴェールさんが怪訝そうに眉をひそめます。私は彼に答えず、震える手でナイフを取り出しました。自分の指先を切り裂くと、赤い血が――鮮やかな「色」が、玉のように膨れ上がります。
その赤は、灰色の地下水路では不気味なほど鮮明でした。私の体から抜け落ちたはずの色彩のすべてが、その一滴に凝縮されているような……命そのものを、一滴の雫に絞り出したような赤でした。
「……ごめんなさい、リア」
謝罪は、誰に向けたものだったのでしょうか。私はその血のついた指を、リアの乾いた唇へと押し当てました。




