第4節:琥珀の断絶、冷たい否定
「……だめっ、リア!」
私は、死者の砂に触れようとするリアの小さな肩を、後ろから強く引き剥がしました。
「……ぁ、う……ッ!?」
その瞬間でした。
リアの小さな体が、びくんと大きく跳ねました。
「ごほッ……! う、ぇ……ッ……」
リアが口元を押さえ、苦しげに噎せ返りました。
指の隙間から、ぽた、ぽたと、鮮血が滴り落ちて、灰色の地面に赤い染みを作ります。
「リア!? 血が……!」
私は慌てて彼女を抱き留めました。
その体は、さっきまでとは比べ物にならないほど、火のように熱くなっていました。
ただ「声」を聞こうとしただけで、彼女の小さな器は、死者の残留思念という毒に侵され、悲鳴を上げているのです。
「……はぁ、はぁ……おねえ、ちゃん……頭が、あつい……いたいよぉ……」
リアの黄金の瞳から光が消え、焦点が定まらずに彷徨っています。彼女は私の腕の中で、熱に浮かされたようにガタガタと震え始めました。
(……私のせいです)
私が目を離した一瞬の隙に。
この子は、その身に余る「死」に触れてしまった。
私が痛みに耐えるのとは違う。この子はまだ、こんな暴力的な代償に耐えられるように作られてなんていないんだ。
「……ごめんね、リア。もういいの。もう二度と、あんな声は聞かなくていいから」
私は懐から布を取り出し、震える手でリアの鼻血を拭いました。
その鮮血の赤が、私の透き通るような白い指先に付着したとき、まるで冷たい雪の上にこぼれた猛毒のように見えました。彼女を汚してしまったのは、連れてきてしまった私なのだと、自分を責めずにはいられませんでした。
「おい、マシロ。……そのチビ、やべぇぞ。熱が尋常じゃねぇ」
ヴェールさんが顔をしかめて覗き込みました。
私はリアを隠すように、強く抱きしめました。
「……意味のないことに、リアの大事な色を使わせません。……この子は、私のそばにいればいい。余計なことは、させません」
私の言葉は、リアを突き放すようでいて、その実、恐怖に裏打ちされた枷でした。
もう二度と、この子に「力」を使わせてはいけない。
もし次があれば、この小さな器は、内側から焼き切れて壊れてしまうかもしれない――。
「……リア。だっこするから。……アイゼンに掴まってて」
「……う、うん……ごめんなさい、おねえちゃん……」
ぐったりとしたリアを背負い直すと、彼女の異常な体温が背中越しに伝わってきました。私の冷え切った体には、その熱さが焼印のように痛く感じられました。
(……大丈夫よ。私が、あなたの熱をすべて吸い取ってあげる)
(私は冷たい部品。あなたの痛みも、熱も、全部代わりに引き受けるために、私は白くなったのだから)
アイゼンが、私の歩幅に合わせてゆっくりと、けれど確実な足音を立てて隣を歩きます。
私たちは、光さえ届かない塔の暗渠を、さらに深みへと進んでいきました。
祈りながら砂になった人々の声を、背後に残したまま。
第7章 「暗渠の捕食者、琥珀の代償」 完




