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色彩搾取の灰色世界で、不器用な魔女は鉄の騎士に命を捧ぐ 〜クロマティック・ウィッチ〜  作者: w.t.
7章:暗渠(あんきょ)の捕食者、琥珀の代償

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第3節:琥珀の残響、死した街

 回収機スカベンジャーだった鉄の塊が、嫌な火花を散らしながら沈黙しました。

 アイゼンは、拳にこびりついた黒いオイルを無造作に壁で拭うと、再び私の隣へと戻ってきました。その青い眼は、もう何事もなかったかのように穏やかに揺れています。


 「……ヴェールさん、大丈夫ですか。ひどい顔をしていますよ」


 「……うるせぇ。さっさと歩け」


 彼は肩で荒い息をつきながら、壁を支えにして立ち上がりました。奪った色が体内で暴れているのか、ヴェールさんの顔は土気色を通り越して、透き通るような青白さに染まっています。

 私たちは再び、暗い通路を歩き始めました。

 しばらく進むと、通路の先が急に開け、広い空間へと出ました。


 「……ここ、なに?」


 リアが私の手を握る力を強めました。

 そこは、かつての「居住エリア」だった場所のようでした。

 何百というプレハブのような住居跡が、巨大な洞窟の壁面にびっしりと張り付いています。けれど、そこに人の気配はありません。あるのは、色を吸い尽くされて灰色に風化した、崩れかけの家並みだけでした。


 「下層市民の成れの果てだ」


 ヴェールさんがランタンの灯りを壁にかざしました。

 「かつてはここにも、塔の配給を待つ連中がひしめき合ってたらしい。……今じゃ、見ての通りだ。吸い上げる色がなくなって、街ごと見捨てられたのさ」


 私は、その灰色の街を見渡しました。

 不思議です。見たこともないはずの場所なのに、この「色のない景色」だけは、私の中に最初からあったもののようにしっくりと馴染みました。


 「……おねえちゃん、あそこ」


 リアが突然、街の片隅にある小さな広場を指差しました。

 そこには、折れた街灯の下に、一体の石像のようなものが座り込んでいました。


 「……いえ、石像ではありません」


 近づいてみると、それは人間でした。

 いいえ、「人間だったもの」です。

 その人は、何かを祈るような姿勢のまま、完全に砂となって固まっていました。服も、肌も、抱えていたはずの記憶も、すべてが同じ灰色に染まり、崩れる寸前の形で止まっています。


 「砂化……。色が尽きると、こうなるのですね」


 「ああ。……あいつらは、最後の瞬間まで塔からの配給を信じて、ここで祈り続けて死んだんだよ。バカな話だろ」


 ヴェールさんが吐き捨てるように言った、その時でした。


 「…………ぁ、う…………」


 リアが、喉の奥で小さく声を漏らしました。

 彼女の黄金の瞳が、暗闇の中でらんらんと輝き始めます。

 それは、アイゼンの青い光とも、ランタンの灯りとも違う――塔の「精製色(あうるむ)」に近い、不気味なまでの輝きでした。


 「リア? どうしたの?」


 私が彼女の肩を抱き寄せようとした瞬間、リアが、砂の死体に向かってふらふらと歩き出しました。


 「……きこえる。……だれか、ないてるの」


 「リア、戻りなさい!」


 私の制止も耳に入らないのか、リアは砂の死体にそっと手を触れました。

 瞬間、彼女の黄金の瞳から、一筋の色が溢れ出しました。

 それは、死者の体に吸い込まれるように消え、代わりに、灰色だった死体から「声」が漏れ出した気がしたんです。


 『……ひもじい……。……あたたかい、色が……ほしい…………』


 死者の無念が、残留した色のカスとなって、リアを媒体に形を成そうとしていました。

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