第3節:琥珀の残響、死した街
回収機だった鉄の塊が、嫌な火花を散らしながら沈黙しました。
アイゼンは、拳にこびりついた黒いオイルを無造作に壁で拭うと、再び私の隣へと戻ってきました。その青い眼は、もう何事もなかったかのように穏やかに揺れています。
「……ヴェールさん、大丈夫ですか。ひどい顔をしていますよ」
「……うるせぇ。さっさと歩け」
彼は肩で荒い息をつきながら、壁を支えにして立ち上がりました。奪った色が体内で暴れているのか、ヴェールさんの顔は土気色を通り越して、透き通るような青白さに染まっています。
私たちは再び、暗い通路を歩き始めました。
しばらく進むと、通路の先が急に開け、広い空間へと出ました。
「……ここ、なに?」
リアが私の手を握る力を強めました。
そこは、かつての「居住エリア」だった場所のようでした。
何百というプレハブのような住居跡が、巨大な洞窟の壁面にびっしりと張り付いています。けれど、そこに人の気配はありません。あるのは、色を吸い尽くされて灰色に風化した、崩れかけの家並みだけでした。
「下層市民の成れの果てだ」
ヴェールさんがランタンの灯りを壁にかざしました。
「かつてはここにも、塔の配給を待つ連中がひしめき合ってたらしい。……今じゃ、見ての通りだ。吸い上げる色がなくなって、街ごと見捨てられたのさ」
私は、その灰色の街を見渡しました。
不思議です。見たこともないはずの場所なのに、この「色のない景色」だけは、私の中に最初からあったもののようにしっくりと馴染みました。
「……おねえちゃん、あそこ」
リアが突然、街の片隅にある小さな広場を指差しました。
そこには、折れた街灯の下に、一体の石像のようなものが座り込んでいました。
「……いえ、石像ではありません」
近づいてみると、それは人間でした。
いいえ、「人間だったもの」です。
その人は、何かを祈るような姿勢のまま、完全に砂となって固まっていました。服も、肌も、抱えていたはずの記憶も、すべてが同じ灰色に染まり、崩れる寸前の形で止まっています。
「砂化……。色が尽きると、こうなるのですね」
「ああ。……あいつらは、最後の瞬間まで塔からの配給を信じて、ここで祈り続けて死んだんだよ。バカな話だろ」
ヴェールさんが吐き捨てるように言った、その時でした。
「…………ぁ、う…………」
リアが、喉の奥で小さく声を漏らしました。
彼女の黄金の瞳が、暗闇の中でらんらんと輝き始めます。
それは、アイゼンの青い光とも、ランタンの灯りとも違う――塔の「精製色」に近い、不気味なまでの輝きでした。
「リア? どうしたの?」
私が彼女の肩を抱き寄せようとした瞬間、リアが、砂の死体に向かってふらふらと歩き出しました。
「……きこえる。……だれか、ないてるの」
「リア、戻りなさい!」
私の制止も耳に入らないのか、リアは砂の死体にそっと手を触れました。
瞬間、彼女の黄金の瞳から、一筋の色が溢れ出しました。
それは、死者の体に吸い込まれるように消え、代わりに、灰色だった死体から「声」が漏れ出した気がしたんです。
『……ひもじい……。……あたたかい、色が……ほしい…………』
死者の無念が、残留した色のカスとなって、リアを媒体に形を成そうとしていました。




