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色彩搾取の灰色世界で、不器用な魔女は鉄の騎士に命を捧ぐ 〜クロマティック・ウィッチ〜  作者: w.t.
7章:暗渠(あんきょ)の捕食者、琥珀の代償

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第2節:廃熱の獣、白銀の不在

「……ヴェールさん。あれは、何ですか」


 私は、アイゼンの背中に隠れながら尋ねました。

 闇の奥から現れたのは、無数の細長い金属脚を持つ、蜘蛛を歪ませたような形の機械でした。節々から黒い油を滴らせ、赤く濁ったセンサーが、獲物を探して不気味に明滅しています。


 「スカベンジャー。塔の掃除屋だ……。動かなくなった機械や、死に損ないの人間を『資源』として回収して回ってやがる」


 ヴェールさんが忌々しそうに吐き捨て、腰の短剣を抜き放ちました。

 禍々しい紋様が刻まれたその刃が、暗闇の中でわずかに呼吸するように光ります。


 『規律違反個体を認識。……解体、および精製炉への搬送プロセスを開始します』


 回収機が、金属の脚を高速で打ち鳴らしながら襲いかかってきました。

 その鋭い爪が私の喉元に届くよりも早く、目の前が青い火花で埋め尽くされました。

 ガギィィィィィィィン!!

 鼓膜を突き破るような金属音。

 アイゼンがその巨大な腕を盾にし、回収機の突進を正面から受け止めていました。

 火花に照らされた彼の装甲は、赤錆びてボロボロでしたが、その一歩は地響きを立てるほどに重く、微塵も揺らぎません。


 『対象の出力、予測値を大幅に超過。……再計算――』


 「再計算なんてさせてやるかよ!」


 アイゼンの影から飛び出したヴェールさんが、回収機の懐へと滑り込みました。

 彼が短剣をその装甲の隙間――関節部のケーブル束に突き立てた瞬間。

 ジュボッ!!

 奇妙な吸引音がして、短剣の刀身が赤く輝きました。

 ヴェールさんの「奪色の短剣」が、回収機の動力源である微量の(アウルム)を強引に吸い上げたのです。


 『動力低下。……エラー、エラー……』


 回収機の動きが、目に見えて鈍くなります。奪われた色彩を補填しようと、機械の脚が虚しく空を掻きました。


 「アイゼン! 今です!」


 私の声に、アイゼンの眼が一段と強く輝きました。

 彼は盾にしていた左腕で回収機の頭部を掴み、そのまま無理やり壁へと叩きつけました。

 ドゴォォォォン!!

 コンクリートが砕け、火花が散ります。アイゼンは一切の容赦なく、その鋼鉄の拳を回収機の動力核へと叩き込みました。

 一度。二度。砕ける装甲の隙間から、濁った油が足元まで飛び散ります。

 三度目で、機械の悲鳴が止まりました。

 沈黙が戻った通路に、アイゼンの排気音だけが「シュゥゥ……」と重く響きます。


 「……はぁ、はぁ……くそ、不味(マズ)いな」


 ヴェールさんが短剣を収め、膝をついて激しく咳き込みました。

 彼の指先からは、奪ったはずの色が砂のようにパラパラと零れ落ち、空気中に溶けて消えていきます。


 「ヴェールさん。大丈夫ですか」


 「……触るな。……お前のその、白くなった手で触られると、余計に寒気がするんだよ」


 彼は私の差し伸べた手を乱暴に振り払いました。

 私は、自分の白い指先をじっと見つめました。

 ヴェールさんの痛々しいまでの「生への執着」と、私の「中身の抜けた体」。

 私たちは、この暗い配管の中を、互いに欠けたものを抱えたまま進むしかないのだと、改めて突きつけられた気がしました。

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