表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
色彩搾取の灰色世界で、不器用な魔女は鉄の騎士に命を捧ぐ 〜クロマティック・ウィッチ〜  作者: w.t.
7章:暗渠(あんきょ)の捕食者、琥珀の代償

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/164

第1節:暗渠(あんきょ)の体温

隔壁扉が閉まった瞬間、世界から一切の光が消えました。

 足元をかすかに照らすのは、ヴェールさんが持つ古い手回し式のランタンと、アイゼンの眼が放つ、深い青の光だけです。

 湿ったコンクリートの壁。どこかで水が滴る音。

 ヴィオラさんの工房にあった油の匂いとは違う、もっと古くて、カビ臭い、生き物のいない墓所のような匂いが立ち込めていました。


「……ねぇ、おねえちゃん。とっても、くらいねぇ」


 リアが私の服の裾をぎゅっと握り、ひらがなをなぞるような拙い口調で囁きました。

 彼女の黄金(おーれりあ)の瞳が、暗闇の中で不安そうに揺れています。


「大丈夫よ、リア。ゆっくり歩きましょう」


「……マシロ。お前、さっきから寒くねぇのか?」


 前を歩くヴェールさんが、振り返らずに言いました。ランタンの灯りに照らされた彼の背中が、わずかに震えているように見えます。


「寒い……。そうですね。言われてみれば、少しだけ」


 私は自分の指先に触れました。

 アイゼンに色を注いでから、私の体からは「温度」という概念が抜け落ちてしまったかのようでした。氷に触れているのか、自分の肌に触れているのか、区別がつきません。


「少しだけじゃねぇだろ。お前、髪の先まで真っ白だぞ。――死ぬ気かよ」


 ヴェールさんの声には、苛立ちが混じっていました。

 彼は立ち止まり、私に小さな銀色の瓶を差し出しました。中には、濁った灰色の液体が揺れています。


「これ、ババアのところから掠めてきた。……『瓶詰めされた色』だ。質は最悪だが、飲めば少しはマシになる。お前が倒れたら、俺が困るんだよ」


「ありがとうございます。でも、これはあなたが持っていてください」


 私は、その瓶を押し戻しました。


「私は、部品ですから。中身が少し減っても、動けなくなるまで使えばいいんです。それよりも、あなたの方が……顔色が良くありません」


 ヴェールさんの「色漏症カラー・リーク」。

 彼は常に、自分の命が指先からこぼれ落ちていく寒さと戦っています。

 私よりも、彼の方がその「色」を必要としているはずでした。


「……けっ、おめでたい奴だな」


 ヴェールさんは吐き捨てるように言うと、瓶の蓋を開け、一気に中身を喉へ流し込みました。

 空になった瓶を懐へ乱暴に放り込み、手の甲で口元を拭います。その横顔には、他者への気遣いではなく、ただ生き延びるための渇望だけが張り付いていました。

 闇の中で、アイゼンが一度だけ、重い足音を響かせました。

 まるで、私の言葉に同意しているのか、あるいは、何かを戒めているかのように。


 その時でした。


『ギ……ギギ…………』


 前方の闇の奥から、不快な金属の摩擦音が聞こえてきました。

 それは、アイゼンが立てる規則正しい音とは違う、何かが「引きずられている」ような不規則な音。


「……おい、止まれ」


 ヴェールさんがランタンを低く構え、腰の短剣に手をかけました。

 音は、刻一刻と近づいてきます。


『対象物、捕捉。……廃棄番号、未照合。……回収を開始します』


 無機質な合成音声。

 暗闇の向こうから、カチカチと無数の関節を動かす音が響きました。

 塔の底部を巡回し、不要になった「ゴミ」を回収して精製炉へ運ぶ、機械の掃除屋。


「……回収機スカベンジャーだ。……ちっ、さっそくお出迎えかよ」


 アイゼンの青い眼が、闇の奥で赤く染まりました。

 私の前に出て、巨大な盾のように影を作ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ