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9:錆びついた祈り
それからの日々は、奇妙な共犯関係の連続だった。村人たちはマシロを「工房の幽霊」と呼び、忌み嫌って近づかない。テオだけが、大人たちの目を盗んで通い続け、言葉を教え、世界のルールを教えた。
マシロは毎日、動かないアイゼンの足元で過ごした。テオが持ってきた古布で、アイゼンの錆びついた装甲を磨くのが日課になった。
「そいつ、もう動かないと思うぞ」
テオは壊れた機械をいじりながら言った。
「中身が入ってねえぞ? なんで形を保ってんだ?」
「ううん……」
マシロは首を振った。彼女には分かるのだ。この分厚い鉄の胸の奥、深い深い底で、微かな、本当に微かな熱がまだ脈打っていることが。
「生きてるよ。ただ、今は眠ってるだけ」
マシロはアイゼンの巨大な手に頬を寄せた。冷たい鉄の匂い。いつか彼が目覚めたとき、一番に私の名前を呼んでくれますように。「マシロ」という、この新しい名前を。
そうして一年が過ぎた。灰色の砂漠に、運命の歯車を回す「あの事件」が訪れるまで――二人は、かりそめの平和の中で息を潜めていた。
EPISODE 0 「色彩の塔からの墜落と、灰色の揺り籠」 完




