4:星の流れる夜
逃げ場など、どこにもなかった。塔の最上層。下界までは数千メートル。窓の外には、追手の**『自律機兵』**が、羽虫のように群れを成して迫る。
塔は緊急維持で排熱路が周期的に開き、封鎖に綻びが生まれていた。アルジェントは迷わなかった。イリスを抱えたまま、ステンドグラスの窓へ向かって、全速力で突進する。
轟音。そして、浮遊感。
二人は、夜の闇へと踊り出た。重力に引かれ、真っ逆さまに墜落していく。私の視界を埋め尽くしたのは、夜空よりも眩い「白銀」の輝きだった。それは塔のどんな灯火よりも純粋で、この世界で唯一、汚れを知らない高潔な銀色。空気との摩擦が、白銀の甲冑を赤熱させ、火の玉へと変えていく。
『――ッ!!』
声にならない咆哮。アルジェントは、イリスを抱きしめる腕に駆動出力を集中させた。背中の排熱弁から過剰な光が噴き出し、装甲が飴細工のように溶け落ちる。自らの背中を盾にし、ただ腕の中の少女だけを守る繭となる。私の目の前で、彼の美しい銀色の装甲が、無残に溶け落ちていく。
熱い。痛い。その瞬間――イリスの体内で、何かが弾けた。
ガラスの棺の中で、長い年月をかけて育てられた七つの色。赤、橙、黄、緑、青、藍、紫。それらが、守護騎士の過剰な魔力に押し出されるように、未完成の魂から引き剥がされ、飛び出した。
七色の光が、流星の尾を引いて四方へ飛散していく。まるで、彼女の魂が砕け散るように。
「――あ……」
イリスは、自分の中から何か大切なものが零れ落ちていくのを感じた。温かかった色が、冷たい夜に溶けていく。それは、夜空を引き裂く一筋の流星となって、世界の掃き溜め――『灰の砂漠』の彼方へと消えていった。
イリスの意識が遠のく中、最後に見たのは、赤く焼けただれながらも自分を見つめる、アルジェントの青い瞳の輝きだった。




