3:沈黙の咆哮(Breakout)
カルミナが命令を下そうとした、その時だった。
――ギ、ガガガッ……!
異音がした。
それは、機械がプログラムされた可動域を無理やり突破しようとする、悲鳴のような駆動音。カルミナが怪訝そうに振り返る。
「……アルジェント? 何をしているの」
アルジェントは答えない。ただ、システムからの『警告:停止セヨ』という赤文字を視界の中で握りつぶし、一歩、踏み出した。
それは、製造されてから初めての、命令なき自律歩行。
ガラスの棺の前で、彼は巨大な拳を振り上げた。守るべき塔の資産。傷つけてはならない聖域。それらを全て破壊してでも、彼女の手を握る。約束を守る。
『――言葉は不要』
ガシャァァァンッ!!
世界が割れる音がした。鐘のような警報が鳴り響く中、白銀の拳が、決して割れるはずのない強化ガラスを粉々に打ち砕いていた。
降り注ぐ破片と光液。水浸しになった床に、咳き込みながら投げ出されたイリスを、冷たい鉄の腕が優しく、けれど力強く抱き上げる。
「あら……?」
カルミナが目を丸くする前で、騎士は誓いを捨てた。主への忠誠よりも、腕の中の温もりを選んだのだ。
「……逃げるぞ、イリス」
壊れた発声機能が絞り出した、最初で最後の「人間らしい声」。
彼は私を抱えたまま、壁を突き破り、灰色の空へと踊り出た。




