2. 狂った祝福
破滅は、甘い香りを纏って訪れた。
重厚な扉が開き、絹擦れのような足音が響く。塔の主、カルミナが現れたのだ。彼女はガラスの棺の娘を、愛おしげに見上げ、うっとりと告げた。
「おめでとう、私の可愛いイリス。私の娘。ついに明日、あなたが『星の炉』へ還る日が来たわ」
慈愛に満ちた、とろけるような声音。けれど、その言葉の意味を理解した瞬間、騎士の甲冑から、ギリリと軋む音が漏れた。
「七色を魂に定着させる日。永遠の光となって塔と一つになる日。素晴らしい婚礼よ」
それは、個の消滅宣告だった。彼女を溶かし、エネルギーとして燃やし尽くす。それを「結婚」と呼ぶ狂気……。
イリスは恐怖に目を見開いた。
死にたくない。
まだ、彼との約束を果たしていない。
外の世界の「海」を見るんでしょう? 「森」の匂いを教えてくれるんでしょう?
昨日あんなに優しくしてくれたのに、さよならも言わずに終わるなんて、嫌だ。
「さあ、準備を――」
カルミナが細い指先を伸ばし、ガラス越しに私の頬を愛おしげになぞった。
その爪を彩る真っ赤なネイルが、なぜか私の目には、瑞々しい花の赤ではなく、無数の虫をすり潰して絞り出した洋紅色――おぞましい血の塊のように見えていた。




