第3節:いつもの朝、いつかの別れ
翌朝。
マシロおねえちゃんとアイゼンは、やっぱり旅装束に着替えていました。
「行くのかい?」
ヴィオラさんが、少し寂しそうに尋ねます。
「はい。……でも」
マシロおねえちゃんは、アイゼンの冷たい腕に触れ、それから食卓の椅子を指差しました。
「夕飯までには戻ります。……この辺りの丘に、新しい色の花が咲いた気がするから」
ヴィオラさんは目を丸くし、それから吹き出しました。
「っは! なんだいそりゃ! ……散歩に行くような顔で、とんでもない装備だね」
「ふふ。だって、何があるか分からないでしょう?」
そう。マシロおねえちゃんは塔に残ることを選びました。
でも、おねえちゃんはやっぱり「魔女」なんです。
じっとしていられなくて、毎日アイゼンと外へ出て、何かを見つけては帰ってくる。
そんな不思議な生活が始まりました。
私は玄関先まで二人を見送ります。
マシロおねえちゃんがしゃがみ込み、私を抱きしめてくれました。
「行ってきます、リア。……いい子でお勉強しててね」
「うん! 行ってらっしゃい!」
アイゼンが、大きな手で私の頭を優しく撫でます。
二人は振り返り、朝日の中へと歩き出しました。
それは、いつもの「行ってきます」。
でも、その背中はあまりにも自由で、綺麗で、儚くて。
もしかしたら、明日はもう帰ってこないかもしれない。
風に乗って、本当の「どこか」へ消えてしまうかもしれない。
おねえちゃんは、いついなくなるか分かりません。
だから私は、大好きな家族の背中が見えなくなるまで手を振り続けました。
涙はありません。
だって、私のスケッチブックには、世界中の色が詰まっているから。
――これが、私の大好きな家族の物語。
彩りの魔女と、鉄の騎士と、私たちをつなぐ「色」の記録です。
外伝4 「極彩色のキャンバス、再会の食卓」 完




