第1節:姉さんへの手紙
「おい! そこの三番! その配線は切るなって言っただろうが!」
私の怒号が、塔の麓に響き渡った。
叱られたのは、灰色の作業服を着た男――かつて「灰被り」と呼ばれていた元・住民だ。
彼はオロオロとスパナを取り落とし、隣の仲間と頭をぶつけている。
「……やれやれ。ポンコツばっかりで頭が痛くなるよ」
私はモノクルを直し、ため息をついた。
マシロたちが旅立ってから、半年が経った。
私はこの塔の麓に工房を移し、**「塔解体・再利用センター(仮)」**の所長なんてものをやっている。
塔の機能が停止し、正気に戻った住民たちは、行き場を失っていた。
だから私が雇ってやったんだ。
この塔は、旧時代のオーバーテクノロジーの塊だ。
これを解体し、安全な技術として世界に還元する。
それが、三百年前に「箱舟」を作った私の、最後の責任だからね。
「所長! 東区画のゲートが開きました! 中から『保存食』のコンテナが出てきました!」
「でかした! 今日の昼飯はご馳走だぞ!」
作業員たちが「うぉー!」と歓声を上げる。
……まあ、少しは賑やかになってきたか。
昼休憩。
私は一人、塔の最上階へと向かった。
エレベーターはまだ動いている。私が直したからな。
最上階、玉座の間。
かつて姉さんが座っていた場所は、今は空っぽだ。
純正炉は冷え切り、ただの巨大なクリスタルのオブジェになっている。
「……よう、姉さん」
私は玉座の足元に腰を下ろし、ポケットから潰れたタバコを取り出した。
火をつけると、紫色の煙が真っ白な天井へと昇っていく。
姉さんは消えた。
マシロが「色彩回帰」を使った瞬間、塔のシステムごと世界に溶けたんだ。
今頃、風や、雲や、あるいは名もなき花の色になって、世界中を漂っているんだろう。
「あんたの負けだ。……いや、私たちの負け、か」
私たちは三百年前、世界を救う方法で対立した。
姉さんは「管理」を選び、私は「温存」を選んだ。
でも結局、正解を出したのは、私たちが作った「人形」たちだった。
論理でも、効率でもない。「愛」なんていう、計算不可能なバグ。
「悔しいけど、悪くない結末だろ? ……あの子たちが作る世界は、私たちが夢見た理想郷より、ずっと騒がしくて、愛おしいよ」
返事はない。
ただ、天窓から差し込む光が、私の吐いた煙をキラキラと照らしていた。




