第1節:言葉足らずのガイドさん
旅を始めて、半年が経ちました。
私たちの足取りはゆっくりです。
私の目が悪いせいもありますが、何より、私たちの「小さなガイドさん」が、道端のあらゆるものに感動してしまうからです。
「あ! マシロおねえちゃん、ストップ!」
クイッ、と左手が引かれました。
私は足を止め、アイゼンの右腕に体重を預けます。
大きな彼の腕は、今の私にとって最も頼れる手すりでした。
ゴゥン、と低い駆動音がして、彼も停止しました。
「どうしたの、リア?」
「お花畑だよ! すっごくいっぱい咲いてるの!」
「へえ、どんなお花?」
リアが私の手を引き、しゃがみ込ませてくれます。
草の匂い。湿った土の匂い。
そして、甘くてパウダリーな花の香りが鼻をくすぐりました。
私の視界は白い霧がかかったようで、足元に何があるのか分かりません。
ただ、淡い色の「モヤ」が広がっているのだけが見えます。
「えっとね……あお! 青くて、ちっちゃくて、星の形!」
リアが一生懸命説明してくれます。
「それからね、えっと……すごく青いの!
空よりも濃くて、でも海よりは薄くて……うーん、なんて言えばいいの!」
リアが悔しそうに唸っています。
最近の彼女の悩みは、語彙力が追いつかないこと。
私に「世界」を教えるというヴィオラさんとの約束を、彼女なりに真剣に守ろうとしているのです。
「ごめんね、マシロおねえちゃん……。私、うまく言えない」
リアの声が沈みました。
彼女の黄金の瞳が、涙で潤んでいる気配がします。
「綺麗なのは本当なのに、私の言葉じゃ、半分も伝わらない……」
私が慰めようと口を開きかけた時です。
ズシン――。
隣にいたアイゼンが、突然その場に膝をつきました。
そして、巨大な鉄の人差し指を、地面――花畑の土へと突き刺したのです。
「アイゼン?」
ブォォォォン……。
彼が機体を微細に振動させ始めました。
それは攻撃のための振動ではありません。
もっと繊細で、一定のリズムを持った波紋。
すると、不思議なことが起きました。
地面を伝わった振動が、無数の花々を揺らしたのです。
チリ、チリ、チリ……。
リン、リン……。
小さな鈴が鳴るような、繊細な音が草原一面に広がりました。
それは「鳴き砂」ならぬ「鳴き花」だったのかもしれません。
アイゼンの絶妙な振動に共鳴して、花弁が触れ合い、音楽を奏で始めたのです。
「わあ……!」
リアが声を上げました。
「お花が、歌ってる!」
チリリン、シャララ……。
風が吹くたびに音色は変わり、右から左へ、音の波が流れていきます。
私は目を閉じました。
音の広がりが、そのまま「景色」となって脳裏に浮かび上がります。
遠くまで続く青い絨毯。
風にそよぐ可憐な花びら。
「……見えるよ、リア」
私は言いました。
「すごく広くて、優しい色だね。……アイゼンの音みたいに、温かくて低い青色」




