第2節:それぞれの道、終わりのある旅路
数日後。私たちは、岐路に立っていました。
「あたしは残るわ」
ヴィオラさんは、塔の麓に工房を構えると言いました。
「この旧時代の遺物を解体して、再利用する仕事が山積みだからね……。それに、リアの面倒も見なきゃいけないし」
「ええっ!? リアも残るの?」
「当たり前でしょ。あんたみたいな放浪生活、子供には教育上良くないわ。……ヴェール、あんたはどうするんだい?」
ヴェールさんは、整備された鉄の柩にもたれかかり、ニヤリと笑いました。
「俺はパスだ。子守りなんざごめんだし、定住なんて性に合わねえ。……西の方に、まだ色の戻りが遅いエリアがあるらしい。そこへ行って、ひと稼ぎしてくるさ」
彼は最後まで「奪う者」としての生き方を貫くようです。
でも、その瞳からは以前のような険しさは消えていました。
「じゃあな、マシロ。アイゼン。……死ぬんじゃねえぞ」
ヴェールさんは短く手を振り、風のように去っていきました。
「マシロおねえちゃん……」
リアが泣きそうな顔で私の服を掴みます。
「行っちゃうの?」
私はしゃがみ込み、彼女の頭を撫でました。
そして、決意を込めてヴィオラさんに向き直りました。
「……ヴィオラさん。連れて行かせてください」
「マシロ? あんたまで」
「一生、連れ回すわけじゃありません。……一年だけ、時間をください」
私は、リアの小さな手を握りました。
「この子の目は、世界を見るためにあります。教室で教科書を読む前に、本物の『空の青さ』や『花の香り』を教えてあげたいんです……。それが終わったら、必ずここへ帰します」
ヴィオラさんは、煙草の煙を深く吐き出し、やれやれと肩をすくめました。
「はぁ……一年だからね。一日でも過ぎたら、連れ戻しに行くよ」
「はい。約束します」
「やったぁ!!」
リアが歓声を上げ、ヴィオラさんに抱きつきました。
「行ってきます、ヴィオラおばちゃん!」
「……誰がおばちゃんだい。ほら、さっさと行きな!」
そして、私たちは歩き出しました。
行き先は決まっていません。
でも、帰る場所は決まりました。
それは「終わりのある旅」の始まり。
だからこそ、これからの毎日が、何よりも愛おしいのです。
「あ! マシロおねえちゃん、あっち見て! 蝶々だよ!」
「へえ、何色?」
「黄色!……あ、待って、やっぱり金色かも!」
リアの声が弾みます。
アイゼンが、ゴォォォ……と満足げな排気音を鳴らし、私たちのペースに合わせてゆっくりと歩を進めました。
私の目は淡い光しか捉えられないけれど、心の中はかつてないほどカラフルです。
右手に鉄の温もり。
左手に命の温もり。
そして背中には、いつか帰るべき「家」がある。
それさえあれば、私たちはどこへだって行ける。
――彩りの魔女たちの「夏休み」は、ここからまた始まるのです。
Epilogue 「虹の架かる場所」 完




