第1節:世界はこんなにも
あの白い光の中に、まだ取り残されているのかと思いました。
私が目を覚ましたのは、見覚えのない白いベッドの上。
いえ、白すぎてよく見えません。
視界全体に霧がかかったようにぼやけています。
「……気がついた?」
懐かしい声がしました。
輪郭は曖昧ですが、その匂いで分かります。
日向のような、甘い匂い。
「リア……?」
「うん! よかったぁ……マシロおねえちゃん、三日も寝てたんだよ!」
温かい小さな手が、私の頬に触れました。
その感触だけは、以前よりも鮮明に感じられます。
記憶が、ゆっくりと蘇ります。
純正炉。カルミナとの決別。七色の解放。そしてアイゼン……。
私は自分の体を確認しました。
右腕にあったドス黒い結晶は消えていました。
その代わり、視界の中心が欠損し、周囲がぼんやりと光って見えるだけ。
「ロービジョン」
純正炉を起動させた代償として、私の「色彩を感じる機能(視力)」の大半は、世界へ還元されてしまったのです。
「……外、見てみる?」
リアに手を引かれ、私はベッドから降りました。
足元はおぼつきませんが、誰かが――とても大きな誰かが、背中を支えてくれました。
硬くて、冷たくて、安心する感触。
振り返らなくても分かります。
「……アイゼン」
彼は何も言いません。
ただ、低く唸るような駆動音で応えてくれました。
私たちは外へ出ました。
そこは、塔の麓にある高台でした。
「うわあ……!」
リアが歓声を上げました。
「マシロおねえちゃん、見て! すごいよ!」
私の目には、ぼんやりとした光の洪水しか映りません。
でも、分かります。空気が違いました。
草の匂い。土の匂い。遠くで流れる水の音。
「……空が、青いの」
リアが私の目になって、教えてくれました。
「雲が白くて、太陽が金色で……地面には、緑色の絨毯がいっぱい!」
世界に、色が戻ったのです。
灰色の荒野は緑の大地に変わり、濁った空は澄み渡る青さを取り戻しました。
それは、夢で見た「幻覚」と同じ光景。
でも、決定的に違うことが一つだけありました。
私の隣に、彼がいること。
巨大な鉄の騎士が、私の隣に立って、同じ風を感じていること。




