第3節:拒絶する虹
私は、まだ温かい自分の血を、冷え切った鉄の装甲に擦り付けようとしました。
この未来の中の私は、ここで諦め、彼の死を受け入れることになっています。
「世界のためなら仕方がない」と。
かつての、孤独だった私なら、そうしたかもしれません。
でも。
手を伸ばした瞬間、私の右腕の七色が激しく明滅しました。
赤、橙、黄、緑、青、藍、紫。
その色が叫んでいました。
『違う』と。
「マシロおねえちゃん!」
幻聴でしょうか。リアの声が聞こえました。
「おい、いつまで寝てんだ! 置いてくぞ!」
ヴェールさんの悪態が、霧の向こうから響きました。
「……やれやれ。世話の焼ける娘だね」
ヴィオラさんの呆れた溜息が聞こえました。
――ああ、そうだ。
記憶の中の私は一人だったけれど、今の私には、彼らがいる。
私一人が犠牲になればいいなんて、そんな独りよがりな自己犠牲は、もういらない。
この計算式には、彼らが入っていない。
カルミナの演算は「論理」だけだ。
「愛」や「絆」なんていう、不確定なバグを計算に入れていない!
「……私は、選ばない」
拳を強く握りしめました。
[cite_start]右腕の七色が、太陽のように輝き始めます [cite: 1]。
それは、提示された運命を書き換えるための光。
『無駄よ。確率は九十九・九%――』
「うるさいッ!! 」
私は顔を上げ、美しい黄金色の空を睨みつけました。
「私は欲張りだから! 世界も、アイゼンも、みんな救う! 誰一人、欠けさせない!」
「あんたの計算なんて、私が全部ぶっ壊してやる!! 」
パリーン!!
私が叫び、拳を空間に叩きつけた瞬間、完璧だった黄金の世界に亀裂が入りました。
空が割れ、大地が砕け、カルミナの作った「理想の結末」がガラス細工のように崩壊していきます。




