第1節:霧の分断
アイゼンがこじ開けた大ゲートをくぐり、私たちは塔の内部――中層エリアへと足を踏み入れました。
そこは、回廊状の巨大な吹き抜けになっていました。
螺旋状に続く階段と、壁一面を埋め尽くす無数の黒いモニター。
私たちが足を踏み入れた瞬間。
バチ、バチ、と音を立てて、全ての画面が一斉に点灯しました。
「……なっ」
映し出された映像を見て、私は息を呑みました。
灰色の村でテオを助けた私。
砂漠で渇きに苦しむ私。
ネオン街でパンケーキを頬張るリア。
紫の洋館で、ドレスを着て踊る私と、それを見守るヴェールさんたち。
すべて、映っていました。
私たちが泣いて、笑って、傷ついてきた旅の全てが。
「……趣味が悪いな」
ヴェールさんが吐き捨てるように言いました。
「全部、見てやがったのか。俺たちの旅は、女王様にとってはただの娯楽映画だったってわけか」
そうです。カルミナはずっと見ていた。
私たちが泥を啜り、血を流し、絆を深めていく様を、特等席で嘲笑いながら観察していたのです。
その事実に、背筋に冷たいものが走ります。
ここは建物ではない。巨大な「実験場」なのだと。
『――ええ、素晴らしい記録だったわ』
天井から、あの甘い声が降り注ぎました。
『愛、勇気、自己犠牲。どれも最高級の感情ね。……さあ、ご褒美をあげましょう。あなたが一番望んでいた、“完璧な結末”を』
プシュウゥゥ……。
通気口から、金色の霧が噴き出しました。
ただの煙ではありません。
視界を遮るだけでなく、意識のピントを強制的にずらすような、甘ったるい芳香。
塔が精製した濃縮エネルギー、黄金色のガスです。
「霧だ! 吸うな! 幻覚を見せられるぞ!」
ヴェールさんの叫び声が、霧の向こうへ遠ざかります。
隣にいたはずのアイゼンの巨体が、金色の霧に飲まれて消えていく。
「アイゼン! リア!」
私は手を伸ばしましたが、指先が触れたのは虚空だけでした。
通信機からもザザッというノイズしか聞こえません。
方向感覚が失われます。上も下も分からない。
完全な孤独。
世界から切り離されたような浮遊感の中、私の意識は金色の海へと溶けていきました。




