第2節:美しき墓標
並木道を抜けると、巨大な吹き抜けの空間――「下層エントランス」に出ました。
以前、ここで私たちは警備兵に見つかりかけ、逃げ惑いました。
あの時は恐怖で周りを見る余裕がありませんでしたが、今こうして正面から入ってみると、その場所がいかに異常であるかが分かります。
そこにあるのは、圧倒的な「美しさ」でした。
壁面は継ぎ目のない純白のタイルで覆われ、天井からは幾何学模様のアートのような照明が、影のない均一な光を落としています。
広大なホールには、塵ひとつ落ちていません。
染みひとつありません。
無菌室のように清潔で、美術館のように静謐。
靴音が反響し、その音さえも吸い込まれていくような静けさ。
私たちの乗る錆びだらけの鉄の柩や、泥と油にまみれた旅装束。
それらはこの空間において、ひどく醜いウイルスに見えるほどです。
タイヤが白い床を汚すたびに、空間そのものが「不潔だ」と悲鳴を上げているような錯覚すら覚えます。
「……綺麗すぎて、吐き気がするな」
ヴェールさんが窓を開け、唾を吐き捨てようとして――止めました。
この床に唾を吐くことさえ躊躇われるような、病的な潔癖さが、この空間を支配していたからです。
「ここは墓場だ。生きている奴が住む場所じゃねえ。……死体を綺麗に並べて、防腐剤に漬け込んで、それを『平和』と呼んで満足してるだけの、狂った箱庭だ」
ズキリ。
右腕の結晶が疼きました。
この空間の「白さ」が、私の右腕の「黒さ」と共鳴している気がします。
私もまた、この塔の一部。
本来なら、あの灰色の住民たちのように、ここで思考を停止して「幸せ」になるはずだった部品。
ここにある「無垢な白さ」は、私が失ったものであり、同時に私が最も憎むべき「何もない虚無」の色でした。
(……でも、私は選んだ)
私は、震えるリアの温かい手を強く握り返しました。
彼女の手は泥だらけで、爪の間に黒い土が詰まっています。
そして、さっき食べたシチューの匂いが少しだけ残っています。
その「生きた匂い」が、私をこの無機質な世界から引き剥がしてくれました。
汚れてもいい。傷ついてもいい。
血を流して、泥を啜って、それでも「痛い」と泣けるほうがいい。
私は、この綺麗な地獄よりも、泥だらけの自由を選んだんだ。
その覚悟と共に、私は前を見据えました。
ズウン……。
鉄の柩が、大広場へと続くゲートをくぐりました。
その瞬間、今まで張り詰めていた静寂が、ガラスのように砕け散りました。




