表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
色彩搾取の灰色世界で、不器用な魔女は鉄の騎士に命を捧ぐ 〜クロマティック・ウィッチ〜  作者: w.t.
25章:『虹色の暴君、鉄の凱旋』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

142/164

第1節:沈黙のパレード

灰色の森を背にして、鉄の柩は再び走り出しました。


バックミラーの中で、カビに覆われていた歪な森が、ただの静かな荒野へと変わって遠ざかっていきます。


私は、自分の右手をじっと見つめました。


テオの命を終わらせた手。


震えはありません。


あるのは、鉛のように重く、冷たい感触だけ。


私はもう、無垢な被害者ではありません。


自分の手で友を殺し、その業を背負うことを選んだ「魔女」なのです。


「……見えてきたぞ」


ヴェールさんの低い声で、私は顔を上げました。


地平線の彼方に、世界の中心――「色彩の塔」が聳え立っていました。


雲を突き抜け、天頂まで伸びる巨大な黒い影。


あまりに巨大すぎて、距離感が狂います。


走っても走っても、その影が視界を塗りつぶすだけで、根元に辿り着きません。


空が、塔に飲み込まれていく。


かつて私が生まれ、そして捨てられた場所。


塔の最下層エリアに入った瞬間、世界から「音」が消えました。


かつて私たちが怯えながら隠れて進んだ、あの「灰色の並木道」です。


あの時は、ただ隠れることに必死でしたが、今はその全貌がはっきりと見えます。


「……おいおい。歓迎なしかよ」


ヴェールさんがハンドルを握る手を強めます。


額には脂汗が滲んでいました。


「砲撃の一発くらい飛んでくるかと思ったが……逆に気味が悪ぃな。この静けさは、罠だぞ」


鉄の柩が進む先には、奇妙な行列がありました。


道路の両脇に、等間隔で整列した灰色の服を着た人々――灰被(はいかぶ)りたちです。


数百、いいえ、数千人はいるでしょうか。


彼らの列は、塔の入り口まで途切れることなく続いています。


彼らは一様に同じ作業服を着て、同じ髪型をして、同じ無表情で、ただ静かに私たちの車を見送っています。


手には武器を持っていません。


代わりに、枯れた造花や、色のない旗を持たされています。


彼らは声を発しません。瞬きすらしません。


ただ、濁ったガラス玉のような灰色の瞳で、私たちを追尾し続けます。


まるで、これから火葬場へ向かう棺桶を見送る、参列者のように。


「……見てる」


助手席で、リアが窓の外を見て小さく震えました。


「みんな、目が死んでる。お人形さんみたい。……マシロおねえちゃん、ここ嫌い。息ができない」


リアの言葉通り、ここの空気は停滞していました。


生き物の匂いがしません。汗の匂いも、生活の埃っぽさもありません。


あるのは、防腐剤のような冷たく乾いた匂いだけ。


「大丈夫よ。見なくていい」


私はリアの目を手で覆い、彼女の頭を私の胸に引き寄せました。


彼女の温かい体温だけが、ここが現実であることを教えてくれます。


私の右目――魔女の視界には、彼らの異質さがより鮮明に映っていました。


彼らの体からは、「生体エネルギー」がほとんど感じられないのです。


心臓は動いている。呼吸もしている。


けれど、魂の熱量が極限まで「節約」されている。


彼らは生きているのではありません。ただ「死んでいない」だけ。


最低限の電力で稼働し続ける、古びた家電製品のような反応でした。


(……これが、塔の「管理」)


カルミナは、この何千人もの「人形」を使って、私たちに無言の圧力をかけているのです。


『見なさい。ここがお前の帰る場所だ』


『思考を捨てれば、こんなにも穏やかで、静かで、痛みのない世界が待っている』


そんな甘く、冷たい誘惑が、沈黙の中に満ちていました。


けれど、今の私にはその静寂が、ただの「死」にしか見えませんでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ