第3節:灰の中から
森が枯れ落ち、元の荒涼とした「灰の村」に戻りました。
私はふらりと立ち上がり、近くを流れる用水路へと歩きました。
水面に手を突っ込み、狂ったように指を擦ります。
「……落ちない」
テオを殺した感触。
灰色の粉のような、命を奪った感触が、指の指紋の溝にまで食い込んでいる気がして。
「落ちない、落ちないよ……っ! 」
ゴシ、ゴシと、皮膚が赤くなるほど擦っても、私の手は「人殺しの手」のままでした。
ガシッ。
その震える手を、大きく、硬い手が掴みました。
「……アイゼン?」
見上げると、そこには傷だらけの鉄の巨人が立っていました。
彼の手は、長い旅路で付着したオイルと泥、そして錆で真っ黒に汚れていました。
でも、それは私が知る限り、世界で一番温かくて、頼もしい手でした。
アイゼンは私の手を引くと、その汚れた親指で、私の濡れた頬を乱暴に拭いました。
ズイッ。
白い肌に、黒いオイルの筋が走ります。
「……っ」
鏡を見なくても分かります。今の私は、酷い顔をしているでしょう。
泥と涙とオイルでぐしゃぐしゃの、汚れきった顔。
でも……不思議と力が湧いてきました。
綺麗なままではいられない。
私は友人を殺し、世界を敵に回してここまで来たのです。
「……そうね。アイゼン」
「これが、私の色。……魔女は、綺麗になんて泣かない」
「……行くぞ」
背後で見ていたヴェールさんが、短く声をかけました。
彼もまた、私の顔を見て何も言いませんでしたが、その口元には微かにニヤリとした笑みが浮かんでいました。
「弔いは済んだ。……次は、本番だ」
私はアイゼンを見上げました。
彼は何も言わず、ただ大きな手で私の頭を一度だけ撫でてくれました。
その手の温もりは、テオがくれたスープの温かさと、どこか似ていました。
「……うん、行こう」
私はもう振り返りません。
過去の過ちも、痛みも、全て背負って進む。
それが、生き残ってしまった「魔女」の責任だから。
私たちは鉄の柩に乗り込み、地平線の彼方にそびえる塔――カルミナの待つ場所へと、車を走らせました。
第24章 「死ねない友人、灰色の故郷」 完




