第2節:おやすみ、共犯者
「……殺してくれ」
テオが掠れた声で懇願しました。
「痛くはないんだ。……でも、終わらないんだ」
「お腹が空いても、身体が勝手に土から養分を吸うんだ。眠りたくても、太陽が出ると目が覚めるんだ。……マシロ、助けて。僕を、人間に戻して」
私は唇を噛み締めました。
過去の私は、ただ彼を助けたくて無我夢中で力を注ぎました。
でもそれは、壊れた時計を無理やり接着剤で固めたようなものです。
彼の「死ぬ権利」を奪い、永遠の苦しみを与えただけだったのです。
「……マシロ、どうする?」
ヴェールさんが短剣に手をかけました。
「お前がやれないなら、俺がやる。……だが、こいつの再生力は異常だ。物理攻撃じゃ、またすぐに再生しちまうぞ」
アイゼンが私を見下ろしました。
その虹色の瞳は、静かに問いかけています。
『どうしたい? 』と。
私は深呼吸をし、一歩前へ出ました。
「いいえ。私がやります」
私は右手の包帯を解きました。
そこには、七色すべてを統べた、完成された魔女の腕がありました。
「これは私の罪です。だから、私が終わらせなきゃいけない」
私はアイゼンの制止を手で遮り、テオの元へ歩み寄りました。
灰色の蔦が私に絡みつこうとしますが、私の放つ圧倒的な魔力に恐れをなして、萎縮して退いていきます。
私は、植物に埋もれたテオの頬に、そっと触れました。
かつて、温かいスープをくれた手。私を守ろうとして、切り裂かれた体。
私は、彼を救うつもりで、怪物にしてしまった。
「……ありがとう、テオ」
私は謝りませんでした。
「ありがとう」と言うべきだと知っていたから。
でも、涙が止まりませんでした。
「色彩回帰……!」
私は、かつて彼に注ぎ込んだ「赤」を、今度は全力で吸い上げました。
与えるのではなく、奪う。
過剰なエネルギーを中和し、彼をあるべき姿へと還す。
シュウゥゥ……。
テオを縛り付けていた灰色の植物が、急速に枯れていきます。
硬化していた皮膚が剥がれ落ち、柔らかい人間の肌が戻ってきました。
「……あ」
テオの瞳から、狂気が消え、穏やかな光が戻りました。
彼は私の顔を見て、あの時と同じように、弱々しく笑いました。
「……へへ。……泣くなよ、ブサイクだな……」
その言葉を最後に、彼の手から力が抜けました。
彼の体は光の粒子となって崩れ、灰色の森の風に乗って、空へと還っていきました。
後には何も残りません。ただ、静寂だけが戻ってきました。




